2026年6月16日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
麻疹(はしか)の患者数増加が問題になっているというニュースがしばらく前にメディアを賑わし、麻疹ワクチンの接種をうけに来てくれる方は増えた印象です。麻疹っていうのは1000人に1人程度で「脳炎」っていう怖い病気も起こしますし、肺炎とか中耳炎とかにもなります。麻疹自体に特効薬がないので、こういった重症化を予防する意味でワクチンは有効です。
ワクチンの意味としては集団免疫を獲得して周囲の人たちを守るという点も大変大きいものと思います。生後12か月未満の乳児や免疫に異常がある影響でワクチン接種が出来ない人もおり、こういった方たちを守るためには周囲が抗体を持っている必要があるのです。なので、ワクチン接種を受けに来てくれる患者さんを見ると、心の中で「みんなのために、ありがとう!」と思いながら問診しています。
この麻疹にとても似ている病気に「風疹(ふうしん)」というものがあります。風疹の流行時期は春先から初夏にかけてですので、3~6月頃です。春一番が吹いて、花粉が飛んでくると、「そろそろ風疹か~」などと思うわけです。
風疹の「風」という言葉ですが、コレは咳やくしゃみ、発熱、喉の痛みなど、いわゆる「風邪」に似た症状から始まる、という事です。これに続く「疹」ですが、コレはブツブツである「発疹」ができるので使われています。この病気は3~5日程度で良くなる麻疹に似た軽い病気とされていた事もあり、「三日はしか」なんて言われています。
なんか、軽んじた奴が命名したって感じしません?個人的な見解ですが、どことなく危機感のない奴がつけた名前な印象が否めないと言いますか、そもそも「三日はしか」って「すぐ治るし、麻疹じゃないから心配いらないよ~」っていう感じがして、喉の奥に小さな骨が刺さったような、かすかな引っかかりを覚えるような感覚がしてしまいます。
たしかに、麻疹と風疹は異なる疾患です。当たり前のように原因ウイルスがまず異なり(麻疹は麻疹ウイルス、風疹は風疹ウイルスです)、爆発的な感染力がある麻疹の感染経路が空気感染・飛沫感染・接触感染である一方で、風疹の感染経路は主に飛沫感染・接触感染です。なので、麻疹の基本再生産数(R0)は12~18と驚異的ですが、風疹のR0は5~7くらいです(基本再生産数;R0とは「免疫がない人達に対して一人の感染者の影響でどれくらい新たな感染者が増えるのか」、という感染力を表す言葉です)。
季節性インフルエンザのR0が1.2~1.4くらいで、コロナ渦初期に強毒性で問題になった新型コロナウイルスデルタ株のR0が5~8くらいですので、イメージ沸くかもしれませんね。麻疹は普通にすれ違っただけで感染する威力ですが、インフルエンザの感染力でも学級閉鎖が起こります。風疹はこのインフルエンザの3~5倍の感染力って事ですので、麻疹と比べるから「まあ、そのくらいか」と思っちゃうんですが、風疹の感染力は全然低くないわけです。
麻疹の発疹はやや大きく、最初は2~3mmくらいなんですが5~10mmくらいまでの大きさになって、お互いにくっつくように(融合と表現する現象です)広がって、最終的に黒っぽい痕が残ったりします。風疹の場合は1~3mmくらいの小さい発疹が広がって、基本的に融合せずに数日で消えて痕は残りません。風疹では耳の後ろ側のリンパ節が腫れ、これが圧されると痛いという特徴はありますが、これも基本的に数日で改善します。子供ですと免疫が未熟なため関節症状が出にくいですが、成人ではウイルスへの強い免疫反応が関節炎を起こして、痛みの影響でロボットみたいなギクシャクした動きになる人もいます。数日~数週くらい痛いですが、やはりこれも徐々に良くはなります。
やや!さては「まあ、そのくらいか」と、また思いましたね!?風疹で注意するのは、こういった症状のみではなく、これから生まれてくる子供への影響もあるんですよ!
1941年にオーストラリアの眼科医であったノーマン・グレッグ先生が、「なんか最近、生まれつき目が白く濁っちゃう(白内障)赤ちゃんが急に増えてんだけど、どゆことコレ?」って疑問を持ちました。ノーマン先生は赤ちゃんの母親たちに詳しく話を聞いたんですが、みんな数ヶ月前の妊娠初期に、当時大流行していた風疹にかかっていた事がわかったんです。この瞬間が、母体が妊娠初期に風疹感染する事が胎児へ影響を与える「先天性風疹症候群」が突き止められた瞬間です。
先天性風疹症候群は白内障の他に難聴、心臓病を合併する、悲しくて辛い病気です。「まあ、麻疹っぽく見えるけど、3日くらいで治る風邪だよ」って言いながら診察していた内科医でも、小児科医でもなく、生まれて間もなく目の異常をかかえた子供の将来を案じてくれた眼科の先生が見つけてくれた病気なんです。
この事実が、「三日はしか」っていう言い方に対して、さざ波のような不協和音が胸をよぎるような感覚を覚える理由なのかもしれません。風疹でこまった人のすべてが、三日で良くなるわけではない、という事です。
つまり!風疹ワクチンの目的は、「自分自身が風疹にかかるのを防ぐこと」だけではなく、「社会全体での流行を予防し、お腹の赤ちゃん・妊婦さんを守ること」、という事です。風疹ワクチンが定期接種になったのは1977年8月で、2回接種がルールとなったのは2006年4月です。しかも、最初の頃は接種の対象は女性のみでした。現在のスタンダードである「男女関係なく、2回の定期接種」となったは2006年4月からです。
現在も、高齢者や40代~60代の男性には風疹ワクチンを接種していない方がいます。また、40代~60代の女性や30代~40代の男女には、接種が1回のみで十分な免疫がない方がいます。
是非とも明るい未来のために、ワクチン接種を考えてみてください。