2026年3月10日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
昨今は不安定ながら気候も安定してきており、爆発的な花粉の飛散によってどこからともなく花をすする声が聞こえ、鏡をみれば自分の目も充血している状況です。こうなると、「ああ、春が来くるな」という感じがしてきますね。
春は健康診断が始まってくる時期です。この時期に発見される事が少なくない病気に、「膀胱がん」があります。”がん”って言葉はなんとなくギョッとしてしまう方も少なくないのですが、今回はこの膀胱がんの話をしていこうと思います。
18世紀後半から、手作業から機械による大量生産化と蒸気機関の使用、木炭利用から石炭利用へ変化したエネルギー革命によって社会経済が根本的に変化したのが「産業革命」です。
これに伴って染料工場等も活発になったのですが、この頃から膀胱がんが急増してきました。
染料工場ではベンジジンやアニリンとよばれる成分が染料として広く用いられていましたが、これらには強力な発がん性があり、特に膀胱がんの発生率が高まります。このため、職業性膀胱がんが問題視され、ここから検査・治療分野での研究が進んでいきました。主に行われる膀胱鏡検査と呼ばれる技術も、エジソンの豆電球発明から飛躍的に進歩していきます。
当然発がん性の強い化学物質は取り扱いも禁止されてきましたので、現代の膀胱がんにおいて最大のリスク因子はもっぱら「喫煙」です。他にも、化学物質への長期間暴露や年齢・性別、慢性的な膀胱炎もリスクとなります。医療行為にも膀胱がんリスクとなるものはあり、骨盤部への放射線治療や抗がん剤/抗免疫薬として使用するシクロホスファミドなども膀胱がん発生リスクが上がります。喫煙とともに何かと病気の発症のかかわる嗜好品にアルコールがありますが、やはり飲酒も膀胱がんリスクとなり、特にこれはお酒が弱い人(アルコール代謝が遅い人)で見られます。
あとは、過去の事件にも使用された「ヒ素」という毒物も膀胱がん等の発がん性があります。日本の水道水は基準が厳しくヒ素の含有は少なくなっており、安心してゴクゴク飲んでいただければと思いますが、ヒ素は日本の食卓には結構多く含まれています。ヒジキを代表とした海藻やお米、魚介類を中心にヒ素が含まれており、魚介類に含まれる有機ヒ素の毒性は低いのですが、ヒジキやコメに含まれる無機ヒ素の毒性は高いとされており、和食好きには悲報とも思えますが、普通の摂取量で問題になる事は基本的にはありません。ちなみに、乾燥ヒジキ4.7g以上(水戻し後30~40g)を長期間たべ続けるとヒ素の基準値を超えてしまうと言われておりますが(小鉢1杯がだいたい3g程度)、水戻しや茹でる過程で9割以上のヒ素が抜けてしまうので、調理の際に水戻しした後の水を捨てたり、茹でこぼしたりする過程を経れば大きく問題ありません。
膀胱がんは「痛みのない血尿」での受診ケースが多く、これを「無症候性血尿」と言います。血尿が出ていたい時には、もっと膀胱炎等の病気を想起するのが一般的です。ただ、頻尿や排尿時痛といった膀胱ならではの症状を伴う場面もありますので、膀胱炎であるとたかをくくったような判断は適切ではありません。なにせ早期発見時の治癒率が高いので、異常があればまず検査する、というスタンスが大切なんです。
男性は女性の3~4倍発生しやすく、喫煙はリスクを3倍ほど高めます。60歳前後の発症が多いので、染料工場で働いていてタバコを愛し、健康のため毎日大量のヒジキを食べている男性に血尿が見られたりするような事があれば、彼に対して膀胱がんの有無を調べない事の方がどうかしているのです。もちろん、女性でも発症するのですが、「女性イコール膀胱炎」という固定観念の影響で女性の方が見過ごされやすく、発見時点で進行してしまっているケースがあり注意が必要です。
膀胱がんは検査異常ですぐに検査をうけ、発見が早期であれば開腹せずに内視鏡で削り取る治療で治すことができます。ただし再発率が脅威の80%という報告もあり、初期判断しにくい癌があるため術後も定期管理・評価が重要です。昨今は5-ALAという天然アミノ酸を内服する事で膀胱がんに色を付ける事ができるようになり、今まで見つけにくかった小さい癌や平べったい癌も確実に治療できるようになってきたので、再発率が大幅に低下しました。この施術をPDD:光線力学診断と言います。
膀胱がんの特徴的な治療として、膀胱の中に結核ワクチンを注射する方法があります。BCGというんですが、”ハンコ注射”といった方が「あ~、あれね!」となる人がいるかもしれません。BCGはウシ型弱毒結核菌という、いわゆる「弱らせた結核菌」なんですが、これを膀胱に注入するのです。すると、当然免疫反応が発生するのですが、この結核菌に誘発された免疫反応ががん細胞にも攻撃をしてくれるんです。もともと、アメリカのジョン・ホプキンス病院にいたパール先生が、「なんか結核の患者さん達ってがんの発症率が低いな~」みたいな内容を報告した事がきっかけで、結核に対する免疫反応とがんの関係が研究された事で編み出された治療法なんですが、本当にこの着眼点には驚かされます。先人が見る角度を変えてくれたおかげで現在の何千・何万という人が恩恵をうけている医療行為は、結構たくさんあるのです。
最近では従来の抗がん剤とは異なる免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる新たな薬物療法の進化や、がん細胞に感染して直接破壊してしまう特殊なウイルスを用いたクレトスティモジーンという治療法などが登場してきており、ますます治療技術が進歩している分野です。
コーヒーは過去、膀胱がんリスクと考えられていました。しかし現在では、カフェインの利尿効果によって膀胱内の発がん物質濃度が低下するため、むしろ発がん率が低下する事が分かり、私も安心して飲むことができます。健康診断で血尿と言われたら、まずはコーヒーを飲んで落ち着いていただき、そして速やかに受診していただくのが正解、という事ですね。