2026年5月05日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
ゴールデンウィークが到来し、こういった時期では不特定多数との接触も増えて感染症が増える一方で、医療機関の休みも増えるため、医療の需要供給バランスが傾きやすくなります。最近は”はしか”の流行もニュースで取り上げられるようになってきたので、予防接種が如何に重要であるのかを改めて感じる日々です。
予防接種って、「ワクチン」って言いますよね。あれは、ラテン語の牛(ウァッカ;Vacca)という言葉に由来しています。これを知ると、注射器で刺される行為が、なんとなく牛の角でつつかれるような感じがして、注射も怖くなくなるような気がします(共感してくれる人います?)。
じゃあなんで牛なのか。これは、ずばり天然痘という病気の歴史に紐づくわけです。
天然痘とは、知る人ぞ知る「史上最悪の病気」の一つです。
天然痘ウイルスによる感染症なのですが、非常に高い致死率を誇る感染症で、感染すると20~50%の人が亡くなりました。この死亡率は子供ですと50%を超え、天然痘によって3~5億人の人が亡くなったとされます。現在の日本の人口が日本人・外国人を合わせて1億2285万人くらいだそうですので、たかが一つ250~300nm(ナノメートル)のウイルスにとって、日本を滅ぼす事など朝飯前だったりします。
医学用語で「人の手が触れる機会が多い”物の表面”」の事を「環境表面」と言うんですが、天然痘ウイルスは環境表面上の生存期間が数カ月~数年という凄まじい長さだったので、一度コミュニティに入ると爆発的な拡大をしました。幸い死をまのがれても、「あばた」と呼ばれる傷跡が全身に残り、また角膜炎による失明者も多く、かつての盲目原因のトップが天然痘であった事を考えると、脅威の感染症であった事がわかります。
実際に、メキシコのアステカ帝国やペルーのインカ帝国が滅亡した理由の一つに天然痘が挙げられ、日本でも平安時代の政権トップであった藤原四兄弟が全員天然痘で亡くなり、政治的な大混乱が起こりました。
18世紀のイギリスでも天然痘は猛威を振るっていましたが、グロスターシャーという田舎町にいたエドワード・ジェンナー先生はある噂を聞きました。その噂というのが「牛痘にかかれば天然痘にはかからない!」という内容のものでした。
牛痘っていうのは、牛の乳のあたりにブツブツが出来る病気で、これが人にうつっても手先にちょっとブツブツができるくらいの軽い病気でした。村の言い伝えを診察室で自身満々に話す乳搾りの娘の言葉を聞いたジェンナー先生は、この内容を聞き流すのではなく、電撃が走るような衝撃をうけたのです。子供の話にも真剣に耳を傾ける、いい先生ですね。
この単なる噂レベルの話を真に受けて、ここから天然痘と牛痘に関する観察研究を20年おこなって、データ収集をしてきました。20年間という時間はジェンナー先生の狂気的な執念とともに、当時の天然痘が如何に長い間人々に恐怖を与えていたのかがわかります。
時代背景的にはしょうがないと思うんですが、ここからの話を聞くとジェンナー先生の事を熱心で良い先生というより、ちょとヤバめの先生と思ってしまうかもしれません。
というのも、観察研究を20年行ってきたジェンナー先生はある、自分の仮設を確認するために、人体実験を行ったのです。当時、乳搾りをしていたサラちゃんは飼っていた牝牛のブロッサムから牛痘をうつされていたんですが、ジェンナー先生はサラちゃんの手にあるオデキから膿を採取しました。そしてなんと、庭師の息子であったフィップスくんの腕に傷をつけて、この膿を塗り込んだんです。しばらくして軽い熱が出たんですが、フィップス君はすぐに元気になりました。
ここで済まないのがジェンナー先生で、今度はフィップス君に本当の「天然痘」を注入したんです。当然、ここでフィップス君が発症しすれば50%以上の確立で死亡しますし、そうすればコレは殺人です。きっと、ジェンナー先生の手も震えていたはず、と思います。
狂気の人体事件から1週間し、フィップス君はめっちゃめちゃピンピンしており、ジェンナー先生は論文として研究内容を発表しました。「そんな事すれば牛の角が生えるぞ!」と嘲笑され、風刺画を見た事がある人は少なくないと思いますが、その後どれほど天然痘が流行してもジェンナー先生の治療をうけた患者が誰も倒れず、この事実が治療の有効性を証明したんです。
ジェンナー先生は1823年に脳卒中によってこの世を去りました。この死から約150年後、世界保健機関(WHO)は1980年に地球上から天然痘が消滅したことを宣言しました。村医者の執念が人類を滅亡の危機から救い出し、私たちは予防接種の事を「ワクチン」と呼ぶようになりました。
私たちは「はしか」に対しても有効な手段を持っています。「集団免疫」といって、95%を人が免疫をもつと、ウイルスは次の感染先を見つけられず、流行と止める事が出来ます。自分がワクチンを打つことは、大切な誰かを守る事につながるんですね。