「心房細動」という診断で見えてくる明るい未来|にじいろファミリークリニック|東村山市久米川町の内科・循環器内科・泌尿器科

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「心房細動」という診断で見えてくる明るい未来

「心房細動」という診断で見えてくる明るい未来|にじいろファミリークリニック|東村山市久米川町の内科・循環器内科・泌尿器科

2026年9月22日

「心房細動」という診断で見えてくる明るい未来

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。

私は循環器内科という心臓や血管、血のめぐり等を専門に診る診療科ですので、「胸がどきどき」という”動悸”に関する相談をうける事は少なくありません。というか、たぶん多い方だと思います。

正直いって動悸の原因ってたくさんあるんですが、不整脈が見つけられた時は心の中で「よっしゃ!」って思います。だって、不整脈って治療法が明確な動悸ですし、患者さんが症状から解放される未来が見えるような気がしますんで、ゴールが視野に入ったような感覚がするわけです。

不整脈も種々あるわけですが、なんといっても不整脈の王様といえば「心房細動」です。心臓って2階建て構造で、上半分を「心房」、下半分を「心室」って呼びます。そして、この心房・心室が順番に規則的に動けば血液をうまい事リレーできるんですが、心房細動の人は文字通り「心房が震えるように細かく動いてしまう」ので、血液のリレーに不調をきたして心臓に負担がかかってしまいます。震えるリズムっていうのは不規則なので、バラバラの脈は患者さんに動悸を自覚させるんです。

1980年代、心房細動は原因不明で治療は不可能とされていました。心房細動における暗黒期や前創始期とも言って過言ではないこの時代に行われた治療には「フルジュレーション」という治療(とも呼びきれませんが)が行われていました。これは、心房の不規則リズムが心室につながってしまう事を抑えるために、心房と心室の間にある電気神経(房室結節と言います)を壊してしまおうというものです。フルジュレーションが行われた人の心臓は自力で動けなくなりますので、その後ペースメーカー手術が必要になります。当時の治療としてはコレが限界だったのです。

そこへ1991年、アメリカの天才外科医コックス教授が立ち上がり、メスを手に取り「心臓の壁をメスで細かく切り刻んでから縫い合わせて、『正しい1本道の迷路(メイズ)』を作るぞ!」と叫びました。大きな広場を縦横無尽に電気が走っているところに、ガードレールを取り付けるようなイメージのこの手術は「メイズ手術」と呼ばれ、見事に成功します。ですが胸を切り開く手術でしたので、誰もが「胸を開けずに、細いカテーテルだけでこの迷路を作れたら、どれほど多くの人が救われるだろうか……」とも思いました。

1990年代半ば、フランスのボルドー大学にミシェル・ハーシュゲルという天才医師がいました。ハーシュゲル先生が「心房細動の発火点を探すんだ!」と言い出した当初、周囲の医師たちは冷ややかでした。だって「心房細動は心臓の部屋全体が無秩序・ランダムに震える病気で、どこか1本の不変の発火点(フォーカス)などあるわけがない」というのが絶対的な常識だったわけですので、当然の反応でもあったんです。

それでも諦めきれないハーシュゲル先生は、心房細動の発作が起きるまさにその瞬間の、心臓の中の電気の動きを24時間監視し続けるという、執念の観察を来る日も来る日も行いました。そんなある日、ハーシュゲル先生は患者の心臓の中でカテーテルを動かしていましたが、この日カテーテルは本来の目的地である心臓の部屋の壁じゃなくて「肺静脈」という血管の奥へと迷い込んでしまいました。肺静脈っていうのは心房と肺をつなぐ血管で、当時は「ただの通路」と考えられていた部位ですのでそこにカテーテルを入れて電気を測るなんてのは、普通は絶対にしない“無駄な行為”でした。

この時ハーシュゲル先生はカテーテルを引き抜かずに、ふとモニターの電気波形に目を留めました。そうすると、患者に激しい心房細動の発作が起こりました。そして同時に、心臓のどの部屋よりも早く、カテーテルが迷い込んだ「肺静脈の奥底」から、凄まじいスピードの電気の火花が吹き出していたんです。この時、その場の全員が「馬鹿な、心臓の外にある、ただの血管から電気が生まれている!?」と鳥肌ものの驚嘆をしていました。

実は、この運命の瞬間から遥か昔、1877年にドイツの解剖学者(ルートヴィヒ・シュティエダ)が「なぜか肺静脈の壁に、心臓と同じような筋肉の繊維が伸びている」という謎の報告をしていたんですが、約120年間、誰もその意味に気づいていませんでした。ハーシュゲル先生が偶然カテーテルを肺静脈に迷い込ませたことで、「忘れ去られていた血管の筋肉が、実は心房細動を爆発させるダイナマイトの導火線だった」という衝撃の真実を121年ぶりに白日の下にさらす事になったというわけです。

1998年、ハーシュゲル先生はこの世紀の発見を世界最高峰の医学雑誌「The New England Journal of Medicine」に発表し、世界中の医師たちがこぞって肺静脈にカテーテルを突っ込む「大アブレーション時代」の幕が開けることになりました。

日本で初めて心房細動に対するカテーテルアブレーションを臨床導入したのが、当時福岡大学にいた熊谷医師でした。当時、世界の医師たちは「血管の中を直接治療すると血管が狭窄してしまう」という手法の限界にぶち当たっていたんですが、 肺静脈だけじゃなくて心房の一部も含めた丸ごと治療してしまう「熊谷式BOX隔離術」というアイデアでこの問題を解決した天才です。この「職人魂」は、フランスの生んだ偉大な発見を、「誰もが安全に恩恵を受けられる、真の神治療」へと昇華させ、現在、世界中で行われている心房細動のスタンダードを築き上げたんです。

現在さらに技術は進歩し、テクノロジーはついに電気パルスを用いて不整脈を治療する時代を到来させました。かつて「100%不可能」と言われた心房細動の治療は、今や「わずか30分、体への負担もほとんどなく、術後数日で歩いて退院できる治療」へと姿を変え、今この瞬間も世界中の患者のドクドクと乱れる胸が、静かな平穏へと導かれています。動悸を放っておくのは、大変もったいないですね。

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