2026年9月15日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
筑波大学の柳沢正史教授が、アメリカの最高峰の医学賞である「ラスカー賞」を受賞されたニュースを最近よく目にします。ラスカー賞は受賞者の多くがのちにノーベル賞を受賞していますから、「アメリカのノーベル賞」なんて言われています。
柳沢教授は睡眠と覚醒をコントロールしている「オレキシン」っていう神経伝達物質を発見したんです。日中に急にめちゃめちゃ眠くなっちゃう病気があり、「ナルコレプシー」っていうんですが、このオレキシンっていうのが不足するとナルコレプシーが起こるんですが、こういった謎に包まれていた睡眠のメカニズムそのものを分子レベルで明らかにした功績が評価されたんですね。柳沢教授の発見が元になって開発された「オレキシン受容体拮抗薬」っていう不眠症治療薬があるんですが、この薬が日常臨床に登場する場面も最近はとても多くなっている印象があります。
ここから突如として尿路結石の話題にシフトしていこうと思っているのですが、実際この睡眠と尿路結石っていうものの間にはそこそこ深い関係があるわけです。
というのも、まず睡眠中って、水分を補給しないじゃないですか。だから、尿がどんどん濃くなるわけです。水などに食塩や砂糖などの物質を溶かして、これ以上溶けきれなくなる限界まで溶けている状態の事を”飽和状態”なんて言いますが、尿が濃くなれば当然のように結石の材料であるシュウ酸やカルシウムなどが飽和状態になるので、結晶化しやすくなるんです。とくに食事をしてから数時間くらいはシュウ酸とかカルシウムは尿中に大量に排出されますから、夕食を食べてすぐ寝たりする行為は「結石よ、どうぞ育ってください」と言っているようなものなのです。
あの尿路結石ののたうち回るような激痛は「疝痛発作」って呼ばれますが、疝痛発作は夜間から早朝にかけて多く発生します。コレにも理由があって、睡眠中は「副交感神経」が優位になり、尿管がリラックスして緩みます。すると、腎臓にたまっていた石がコトッと尿管に落ちやすくなるんです。そんで、明け方にかけて「交感神経」が優位になってくると、今度は尿管がギュッと緊張して収縮しますので、尿管に落ちた石が挟まって疝痛発作が起こるんですね。
あと、睡眠時無呼吸症候群っている寝てるときに呼吸がとまっちゃってる病気もありますが、この病気の人は二酸化炭素が体にたまって、体の中が酸性になっちゃいます。これをなんとか中和しようと、尿の中に酸の成分を出すんですが、尿は酸性化すると結石ができやすくなるので、つまり睡眠時無呼吸症候群と尿路結石も知らぬ仲ではない、という事です。
ね、なんか睡眠と尿路結石ってつながってるんだな~って思いますよね。まあ、人の体の出来事など基本的にすべてつながっているとみてよいわけですので、当然といえば当然なんです。
なのに!なのにですね!!、なんと尿路結石の話題でラスカー賞をとった人は今のところ一人もいません! そして当然のように(当然のように?)、尿路結石の話題でノーベル賞をとった人もいません。ですが、「イグノーベル賞」を尿路結石の話題でとった先生はいます。イグノーベル賞はユーモラスで風変わりな研究に対して贈られるノーベル賞のパロディですが、私たちの科学への関心を高めてくれる国際的な賞です。尿路結石の話題に賞を贈るとは、見る目がありますな。
アメリカのミシガン州立大学に所属していたデヴィッド・D・ワーティンガー教授が主導し、当時研修医であったマーク・A・ミッチェルとともに作成した論文がもとで、二人は2018年にイグノーベル賞を受賞しました。
当時ウォーティンガー教授は多くの患者から「ディズニーワールドのビッグサンダー・マウンテンに乗った後に尿路結石が自然に出ました」っていう体験談をよく聞いていたそうです。中には「スペース・マウンテンとか他のアトラクションでは出なかったんだけど、ビッグサンダーだけは効果があったな~」的な話をする患者もいたらしく、「ビッグサンダーマウンテン特有のGフォースとか振動って、本当に尿路結石を出しやすくするんじゃないかなー」って考えて、これを科学的に検証することにしたんです。この行動力が尊敬されるべきであり、面白いですよね。
思い立ったが吉日って感じで、その後は実際に何個も結石を自然排出した経験を持つ患者さんのCT検査データをもとにした腎盂・腎杯(腎臓の尿が溜まるところです)の精巧な3Dシリコン模型を作って、その模型の中にモデルになった患者から実際に採取した本物の尿路結石を置いて、その後全体を尿で満たしたんです。この尿もモデルになった患者さんの尿です。そうです、やっぱり馬力のある先生たちって、ちょっとネジ飛んでるんですよね。
そしてその模型をどうしたのかっていう事ですが、なんと模型をバックパックに隠して、模型が人間の腎臓とちょうど同じ高さになるような高さで背負って、ディズニーワールドのビッグサンダー・マウンテンに合計20回乗車したんです。飛んでるネジはちょっとじゃなかったですね。
この、大人の男性2人がバックパックを背負ってビッグサンダーマウンテンに連続乗車するという奇行により、適度なスピードと激しい遠心力・振動を持つジェットコースターへの乗車(特に後方座席への乗車)は、4mm未満程度の小さな尿路結石を自然排出させるための、安全かつ効果的な治療補助になり得るという事が科学的にわかりました。
日常の中にあるものが医学的発見につながるというメッセージ性を感じる、大変面白い内容です。まあでもビッグサンダーマウンテンに何度も乗るのは簡単ではないですから、とりあえず私たちは質の良い睡眠をとりましょう。