心臓ホワイト企業論|にじいろファミリークリニック|東村山市久米川町の内科・循環器内科・泌尿器科

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心臓ホワイト企業論

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2026年6月30日

心臓ホワイト企業論

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。

今年の6月は6月らしく、まだ夏空というよりは梅雨空が続いております。本格的な夏はこれから到来するのですが、最近はフランスの猛暑で多くの方が困られていた様子がニュースで報道されており、本邦でも似たような事例が出ぬことを望む限りです。

嘘みたいな本当の話ですが、夏バテ予防で水分をとっているという患者さんが飲んでいるのがビールって事もあり、こういった時は優しくツッコみたい気持ちにもなります。アルコールには利尿作用がありますので、1Lのビールによって失われる水分は1.1Lであり、これで水分摂取っていうのも無理ゲーという事です。

心不全っていう病気があります。これは血管がキュッとなって血圧が上がりやすい冬に悪化する事が多いです。そうすると、夏はへっちゃらとも思うかもしれませんが、熱中症対策に塩分摂取が重要視されたりするので、意外に夏でも悪化する人がいます(意外でもないですか?)。塩分過剰摂取になりますと、どうしても水分が体に留まってしまいますので、そうすると基礎の心機能が悪い人では堪えきれなかったりするんです。

要するに、冬には冬の心不全注意点があるように、夏には夏の心不全注意点があるという事です。この心不全という病気の管理はガイドラインという教科書のようなもので主軸となる方針が決められています。おかげで、北海道であろうと東京であろうと沖縄であろうと、同じような治療をうける事が出来る訳です。

2026年6月今日の治療に関するガイドラインは「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」という物です。改定前は2018年版のガイドラインだったので、実に7年ぶりに改訂でした。これまでは「治療」・「悪くなったら手厚く治す」という点に関して重点的に述べられていたガイドラインでしたが、2025年3月28日に公開された最新版では「そもそも発症させない、一段階上へ進行させない」という「予防」という観点に重点がおかれた内容へと明確に変化しました。当たり前のような考え方にも感じるかもしれませんが、健康長寿がさけばれている現代を表すような“今風の価値観”に近づいたという印象もうけます。

そもそも心不全という病気も時代の中で管理が大きく変わってきた病気です。古代人にも心臓がありますので、心不全は大昔から存在した病気でした。大昔の人々にとって心不全=心臓の病気という認識はしっかりしておらず、当初は「身体が水浸しになる謎の怪奇現象(=水腫)」という見方をされておりました。“なんでも第一発見者”でお馴染みのヒポクラテスも、心不全患者に関して「お酢が沸騰しているような音がする」と記録を残しており、これは肺に水が溜まった音を表現しているのですが、当時の診療も暗中模索であった様子がうかがえ知れます。治療法もはっきりしておらず、お腹にストローのようなものを刺して水を抜いたり、はたまた足にヒルを這わせて体液を吸わせたり、あるいはメスをつかって血を抜くような治療を行っていました。この時代に心不全にはなりたくないですね。

17世紀に入り、ウィリアム・ハーヴェー先生が「血液は循環してるんじゃ!」という事を発見します。当たり前って感じると思いますが、それまでは「一回つくられた血液は内臓に流れ着くとそれで終わり!」という考え方が主体だったので、「ぐるぐる回って循環している」っていう概念ってすごく斬新で新鮮だったんです。このハーヴェー先生の発見によって、人類は「だったら心不全って、ポンプ(心臓)が悪いから起こるんじゃないの?」という真相に迫る事ができました。

その後、民間療法出身の最強神ハーブであるジギタリスという薬が出てきます。ウィザーリング先生という執念の医師兼薬草学者によって広まった強心剤なんですが、これが大ヒットして「弱った心臓にムチ入れてポンプ(心臓)を強めようぜ!」っていう考え方が治療の主体になったんですね。

長い間この考え方が心不全治療の中心的スタンスだったんですが、20世紀後半になると、この「ブラック企業的考え方ってあんまり良くないんじゃない?」的なデータがたくさん出てくるようになりました。多くの研究で、強心剤を使った患者の方が、逆に寿命が縮んでしまう事がわかったんです。

そこで、医学会は「心臓が弱ってるんだから、叩くんじゃなくて休ませてあげようよ!」というコペルニクス的転回を迎えました。こういった根本的な発想展開をパラダイムシフトと言いますが、当初心臓を休ませる薬を心不全に用いる事は禁忌として認識されていたわけですので、この考え方の変化は大きなパラダイムシフトでした。

21世紀の心不全治療は「いかに心臓を甘やかせるか」という事をコンセプトに、「大・心臓サボり時代」へと突入しています。2018年から2025年までのガイドラインでは心臓を休ませる薬は少しずつ増やしていくのが一般的だったのですが、2025年版のガイドラインからは「可及的早期に複数種類の薬剤を用いる」という治療が主流となりました。特に有効な4種類の薬剤を早期から用いることで、心不全の予後が劇的に改善するという事が明らかになったんです。この4種類の薬を「ファンタスティック・フォー」(4大奇跡の薬)と呼びます(嘘じゃありません)。心不全患者さんのお薬手帳にこのファンタスティック・フォーが全て処方されているのを見たりすると、これを処方した先生は只者ではないな、と感心してしまう事もあります。

「働きが鈍いからムチを入れるぜ」という時代から、「疲れてそうだから、ちょっと肩もんであげよっか」という時代を経て、「なんか最近つかれてるじゃん、だったらリゾートホテル招待しちゃうよーん」の時代に突入したのです。まあ確かに、それが一番効くわな、という事を何十年何百年も研究し、根拠を見出している医学の歴史には脱帽します。皆さんの心臓も、弱った時にはとことん甘やかせましょう。

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