2026年7月21日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
先週くらいから暑さがさらに増しました。「夏と言ってもまだ朝はいくらか冷えも感じるな~」なんて思っていたんですが、梅雨が明ければ言葉通り焼けるような暑さで、ちょっと外に出ていれば大汗をかく羽目になりますし、神経的・肉体的な疲労の影響で心臓にも負担がかかったりします。
7月の誕生石はルビーです。誕生石というのは聖書の記述をヒントにして考案された宝石商のマーケティング戦略で、お守り的な立ち位置のものですね。
このルビーという宝石は、その昔心臓の薬として使われていました。というのも、古代医学には「シグネチャーの理論」と呼ばれる考え方があり、これは「見た目が似ているものは、体内で似ている場所に効くのだ!」というものでした。この理論によると、「ルビーは赤いので、血液っぽい。よって、心臓の病気や出血の病気に効くのだ!」的なぶっ飛んだ考え方でした。なので、心臓を良くするためにルビーで胸をこすったり、解毒剤としてルビーを粉末にして飲んだりしていました。その昔にペストと呼ばれる感染症が流行した時も、ルビーの指輪をつけるべきであると医者が患者に勧めたりしたほどです。
ちなみに、おしゃれを目的として曇りガラスの向こうの風の街でルビーの指輪をつけるのは大変結構ですが、ルビーそのものは吸収されたりしませんので、飲んだり撫でたりしてもあんまり意味ありません。
それでも、7月に心臓の負担が増えやすいという事実はどうやら本当なんです。
ちょっと毛色の違う話になりますが、緊張するとドキドキしたりしますよね。あれって、パニックになった脳が心臓に速く動くように間違えて命令しているって、長い事考えられていました。ですが、順番が逆なんだって事がある程度最近になって分かったんです。というのも、心臓には4万個くらいの神経細胞があつまった特殊な神経ネットワークがあるって事が判明しまして、なんか興奮したりすると脳よりも先にこのネットワークが違和感を察知するらしいんですね。それで、「なんか良く分かんないけどヤバい感じするよ」っている信号が心臓から脳に伝わって、そこで初めて脳が「え、なんかヤバい感じらしいよ」的な感情の反応を起こすらしいんです。この心臓独自のネットワークは心臓神経学の領域では「心臓脳」と呼ばれ、これらの反応の一部は「吊り橋効果」などと呼ばれるものとして知られていたりします。
心臓と脳っていうのが結構親しき間柄であるという事がわかるお話ですが、この臓器的に仲良しっていうのは時に問題に発展する事もあるんです。それが「たこつぼ心筋症(ストレス心筋症)」っていう病気で、夏に増える心臓の負担として無視できない奴なんです。
簡単に説明しますと、愛する人との別れや大災害へ対する恐怖、人生最大級の精神的ストレス等があったとき、「これは大ピンチすぎる!」っていう緊急信号が脳から心臓めがけて発信されるんです。この時、カテコラミンっていうストレスホルモン(アドレナリン等の事です)が心臓に津波のように放出されるんです。当然心臓には神経が細かくネットワークとして存在しますので、心臓にもアドレナリンセンサーがあるわけなんですが、こいつにも受け止められる許容範囲があります。ですので、この壮絶なアドレナリンがおくられてきてしまうと、心臓が耐え切れずにオーバーロードしてフリーズしちゃうんですね。この時の心臓の動きは、根元だけが激しくバタバタと動くんですが先端が風船の見たいに膨らんでいて、伝統的タコ漁でつかう「タコ壺」の形によく似ているので、「たこつぼ心筋症」って名前が付けられる事になりました。
私は「まあ確かに壺。だけど、花瓶っていわれれば花瓶にも見えるし、ベルとかスズランの花とか、そっちにも見えるよね」っていう印象ですが、これを命名した日本人の佐藤先生がタコつぼ漁の本場である兵庫県明石市のすぐ近くで医療に携わっていたので、独特な形をみた瞬間ひらめいたらしいです。
たこつぼ心筋症が7月(6月〜8月)に起こりやすくなる理由なんですが、これはやはり肉体的なストレスに他なりません。昨今の環境医学ですとか、米国心臓協会が出しているデータでいうと、ズバリ急激な気温上昇が体に強いストレスを与えているみたいなんです。人間っていうのは猛暑にさらされると体温調整のために交換神経がフル稼働して、この時にカテコラミンがかなりたくさん放出されるんです。ですので、確かに尿中のカテコラミンを測定してみると、6月・7月は他の月と比べて尿中カテコラミン濃度が高くなる事が実際の調査で実証されています(カテコラミンは尿で出ていきますので、これを測定すると実際の体内ホルモン量を評価できます)。
他にも、やっぱり汗をかきますので、体の中の水分が減るわけです。そうすると、血液がドロドロになって、うまく流れなくなってしまいます。昨今の研究ではどうやらたこつぼ心筋症の患者さんの心臓では毛細血管の働きが麻痺しているという事がわかっており、カテコラミンの刺激で毛細血管がギュッとなったところにドロドロ血液が流れるので、余計に心臓の酸素供給にダメージが起こっているのではないか、と考えられています。
まあでも、言われなくても夏の暑さが心臓にも心臓意外にも、あんまり良くないんだな、って事くらい皆なんとなく分かってましたよね。「こんだけ暑いとどうにかなっちゃうな」って思った事、ありましたもんね。こんなに体がつらいときに、精神的なストレスが来ちゃえば当然のように心臓は悲鳴をあげますし、それに関して心臓を責める事も出来ません。気持ちは良く分かります。
「身も心も休養を」をスローガンに、この夏は心臓脳を特に労わりましょう。