2026年9月01日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
心不全という病気があります。医学的には「なんらかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群。」と定義されていますが、わかりやすく言い換えると、「心臓の調子が耐え切れないくらい低下して困っちゃう状態」という事です。
もうね、かなりざっくりとした言い方をしていて、基本的に特定の疾患を指した病名ではありません。しかも、心臓の調子が悪くなった原因に関して言及していませんので、例えば心筋梗塞や不整脈で心臓が悪くなっても心不全と言っていいわけですが、貧血とかホルモンの異常が根本的な問題であっても、その影響で心臓に負担がかかって苦しければ心不全と言っていいわけです。都合がよく使いやすい病名なので、「良く分かんないから、とりあえず心不全」っていう使い方をされてしまう事もあるでしょう。まあ、多様で複雑な病態である事は事実ですので、理解そのものが難しいのだとは思います。
こんな心不全の病態の一つにHFpEF(ヘフペフ)というものがあります。HF(ヘフ)とはHeart Failureのイニシャルをとったもので、「心不全」という意味です。一方、pEF(ペフ)とはpreserved EFという意味で、「EFが保たれた」という事です。EFっていうのが心臓の縮む力を表した割合なので、HFpEFとは「心臓の縮む力が維持されている心不全」という事です。
心不全という病気の歴史の初期には、「心不全の患者さんでは心臓がちゃんと縮まないから血液の循環が悪くなるのだ」という考え方が結構な常識でしたので、心臓の縮む力(EF)が維持された心不全というのは意外な病態だったんですね。1980年代からは心不全の病名で入院した患者さんはEFが維持されている人の方が多い事が多数報告され、昨今はおおむね循環器領域では一般的な概念になりました。カタカナの方がなんとなく堅苦しさがないので、「ヘフペフ」と書いていきましょう。
ヘフペフでは心臓の縮む力が保たれています。よって、見た目は超元気です。この見た目は超音波検査で見る実際の動きですので、お医者さんがパッと検査で見ても、「お、元気に動いてるね!」的な感じで騙されがちです。ただし、いくら縮めても、心臓はポンプですので、その前に「拡がる」という事が必要なわけです。
この拡張というアクションは収縮に匹敵するくらい重要ですが、ヘフペフで障害されているのは「拡張」の能力で、ゴム風船のゴムがタイヤのゴムになったような感じに心臓がガチガチに硬くなっちゃてるんですね。ですので、全身から戻ってきた血液に対して「いま満員なんで!」とドアを閉め切る形になり、そうすると、行き場をなくした血液が心臓の手前(部位でいうと肺や足などです)で大渋滞を起こす事になって、結果として息が苦しくなったり足が腫れたりするんです。
どんな人がなりやすいかって言いますと、「長年高血圧という重労働に何年も耐え続けた心臓」とか、「好ましくない生活習慣にさらされてきた心臓」とかです。人の事が言えるほどイイ生活習慣じゃないので、心の中では小声になっちゃいますが。
高血圧に長く耐えていると心臓は筋トレされ過ぎちゃってますので、「分厚くガチガチ」です。また、肥満や糖尿病、酒の飲みすぎ等が重なると心臓の周りに脂肪のサポーターが巻かれてしまいます。なので、こういった方達では心臓の拡張が邪魔されちゃうんです。
以前は「硬い心臓を柔らかくする薬がない!」とお医者さん達も頭を抱えていたんですが、最近ですと「SGLT2阻害薬」っていう大ヒット薬が登場してくれたおかげで、対応ができるようにもなってきました。もともと糖尿病の薬だったんですが、「余分な水分を適度に減らして心臓の渋滞をめっちゃスムーズにする」という超能力が発覚し、今ではヘフペフ治療のエースになっています。
キングス・カレッジ・ロンドンっていう公立研究大学の研究チームの研究論文が、2026年8月19日に、アメリカ科学振興協会が発行している「Science Advances (サイエンス・アドバンス)」っていう科学雑誌に掲載されました。”Targeting PKGIα Cys42 attenuates cardiac dysfunction in heart failure with preserved ejection fraction” っていう論文で、意訳すると「PKGIαっていうタンパク質に働きかけたら、ヘフペフが良くなっちゃいました!」っていう内容です。
PKGIαは心臓を保護するタンパク質なんですが、ウロリチンAという物質で活性化されます。この研究では、ウロリチンAをマウスに投与したところ、心臓が良く拡張するようになって、マウスも活発になったんですね。しかも、このマウスの心臓細胞を顕微鏡で詳しく見てみると、心臓細胞の肥大が抑えられていて、筋肉が硬く変化してしまう反応(医学的に繊維化と言います)が減少していたんです。
ウロリチンAには、細胞のエネルギー工場である「ミトコンドリア」の古くなった部分を掃除し、新しく元気な状態に再生する働き(マイトファジーと言います)を促進する作用があり、これによって心臓の若返ったのでは、と考えられています。
このウロリチンA、さぞお高いんでしょ~って思いますよね?これね、ナッツやベリー類、ザクロなんかに多く含まれてる成分です。ただし、正しくはこれらに含まれた「エラグ酸」と呼ばれるポリフェノールから腸内細菌が作り出す物質です。ですので、ただ単にベリーやザクロを食べるのではなく、発酵食品や野菜などで適切な腸内細菌を育てる事も必要になります。
したがって、ベリーやナッツにヨーグルトを合わせたら、“お口はおいしく、お腹の調子は健やかで、心臓はの~びのび”、という素敵なデザートが完成するという事です。試してみて下さい。