脳「あ、静か。生き返るわ〜。」|にじいろファミリークリニック|東村山市久米川町の内科・循環器内科・泌尿器科

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脳「あ、静か。生き返るわ〜。」

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2026年8月18日

脳「あ、静か。生き返るわ〜。」

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。

突然ですが、JAMA Neurology(ジャマ ニューロロジー)っていう学会誌があります。これはメチャメチャ有名な学術誌で、インパクトファクターは驚きの23.6です。インパクトファクターっていうのは「その雑誌の学術分野における影響力や重要度」を数値化したようなもので、インパクトファクターは5以上の雑誌ですと非常に格が高いものとされ、10以上は超一流です。基本的にインパクトファクターがついていない(つまり0)の学会誌が圧倒的に多い現状において、”23.6”というのはすさまじい点数です。

この超有名雑誌に2026年7月20日付けで面白い論文が掲載されていました。デンマークがん協会研究センターのメッテ・セーレンセン先生が報告した、道路交通騒音とパーキンソン病リスクの関係性における研究です。(Sørensen M, et al. Road Traffic Noise, Noise Difference Between Residential Facades, and Risk of Parkinson Disease. JAMA Neurol. 2026 Jul 20:e262262.)。面白かったので、紹介しようと思います。

都会の喧騒や家の前をひっきりなしに通り過ぎる車の音に対して私たちが「うるさいなぁ」と感じるとき、ストレスを受けているのは耳だけではないのです。これは感覚的にはうなずけるかと思いますが、近年の医学研究では、慢性的な交通騒音が、睡眠を妨げたりストレスホルモンを分泌させ、最終的には脳に炎症を引き起こすのではなかろうか、という指摘がされてきました。

ここで、高齢化社会で患者が急増している「パーキンソン病」に目をつけ、騒音も脳の病気の引き金になるのではないか? という仮説に関して壮大な研究をしたんですね。

この研究のすごい所が、すごい量のデータをメチャ長期間分析した点でもあって、なんとその研究対象者数は脅威の310万人です。正しくは、40歳以上のデンマーク住民3,103,577人です。この人数を2000年から2017年までの 18年間にわたって追跡しました。この規模の研究は、国家レベルの超巨編の研究です。

研究内容としては、建物を正面から見たときの外観に当たる壁面を「ファサード」と呼ぶんですが、家屋内でもっともうるさいであろう道路側のファサード、もっとも静かであろう裏庭側ファサードの騒音レベル(デシベル)を個別に算出して、この数値のパーキンソン病発生率に関する研究をした、という事です。実際この追跡期間中に、20,587人がパーキンソン病を発症しました。

もちろん、パーキンソン病を発症したからといっても騒音以外に大気汚染だったり個人の収入、教育水準とか住んでいる地域の人口密度など、各々の患者さんで条件は多種多様です。この研究では患者さん事のこういった多種多様な因子を統計学的に引き算して排除して評価しました(統計学ってそんな事が可能なんです)。

すると恐ろしい事実が判明しました。なんと、最もうるさいファサードの騒音レベルが11.5デシベル上昇するごとに、パーキンソン病の発症リスクが3%〜6%ずつ上昇していたんです。そしてさらに、最も静かなファサードの騒音レベルが 8.9デシベル上がると、パーキンソン病発症リスクが4%上昇していました。つまり、最大のうるささや家全体のベースのうるささは、脳に確実な影響を与えていたんです。

これらの結果から研究チームは「道路側がうるさくても、静かな場所があったらセーフっていう可能性もあるんじゃない?」的な考えに至ったんでが、こういう「ああ、うるさいのは脳に良くないんだな」で終わらないところってクリエイティブですごくイイですよね。

このアイディアから道路側と裏庭側のファサード間の騒音差に注目にて追加分析をしたところ、騒音差が「10デシベル以上」ある家(=はっきりとした静かなファサードがある家)に住んでいる人は、パーキンソン病のリスクが明らかに低下することが判明しました。つまり、たとえ家の前が55デシベルとか60デシベル以上とかの激しい道路交通騒音に晒されていたとしても、「裏庭に面した静かな寝室」 を持っている人であれば騒音による脳へのダメージをリセットできている可能性が高いって事です。逆に、道路側もうるさく、裏側もうるさい、つまり騒音からの逃げ場がない家に住んでいる人は、騒音による悪影響がストレートに脳へ蓄積してしまうんです。

ちなみに、この10デシベルっていうものですが、デシベルっていうのは足し算ではなく「掛け算(対数とも言います)」の性質を持っていますので、「騒音が10デシベル下がる」って言うと体感では「音が半分」に減ったように感じるくらいです。具体的にはうるさいセミのすぐ近くくらいだと70デシベル程度、走行中の車内で60デシベル程度、静かな事務所で50デシベル程度、図書館で40デシベル程度、そしてささやき声で30デシベル程度です。

つまり、「道路側と裏庭側のファサードで10デシベルの騒音差がある」というのは、道路側のうるささに比べて、裏側の部屋に入ると「お、騒音が半分くらいに減って静かになったな」って感じるくらいのレベルの事です。

結局ところ私たちの脳っていうのは思っているよりも何倍もデリケートで、日常で意識もしないような事に多大な影響をうけているのです。

結論として、完璧な静寂が重要というのではなくて、耳栓をつけた時みたいに『あ、静かになったな』って脳がホッとできるような「騒音の逃げ場」でメリハリをつける事が、パーキンソン病や脳の炎症を予防するために重要である、というわけですね。あらためて、面白い内容でした。

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