2026年5月12日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
突然ですが、夜間頻尿という疾患をご存じでしょうか。
医学的用語として、似たような特徴をもつ病気のグループを「疾患群」と呼びます。泌尿器科では「下部尿路症状」という疾患群を扱う事が日常的に多く、これは「蓄尿症状」、「排尿症状」、「排尿後症状」、「性機能関連症状」、「骨盤臓器脱出関連症状」、「生殖器痛・下部尿路痛」、「生殖器・下部尿路痛症候群および下部尿路機能障害を示唆する症状症候群」の計7種類を意味する言葉です。夜間頻尿はこのうちの蓄尿症状に含まれており、生活の質を低下させる代表的な下部尿路症状です。
夜間頻尿を言われれば、なんとなく夜中に何回もトイレに行く事だって思いますよね。だって「”頻”尿」なわけで、“頻”って「何度も」って意味ですもんね。だからこそ、夜間頻尿の定義を答えられる人が多くないんです。実は、夜間頻尿とは「夜間、排尿のために1回以上起きなければならないという訴え」の事を言うんです。ほらね、1回起きるだけでも夜間頻尿だったとは、思ってもなかったでしょう?
ちなみに、この“夜間”っていうのは、「何時から何時まで」という事ではなくて、「寝付いた後から朝起きるまで」の事です。
実際は夜中に1回起きる程度では必ずしも治療を行ったりしないのですが、それでも2回以上起きてしまうのであれば、睡眠の質が低下してしまうので、転んでケガをしてしまうリスクや日中の集中力低下・生活の質低下が無視できなくなるので、こうなると治療の対象として考える事になります。
「でも、ただ夜中にトイレに行くだけでしょう?」と思うなかれ、実は体調不良のサインとして夜間頻尿の症状が出る事もあり、甘く見てはいけない面もあります。こういった危険性はワンちゃんや猫ちゃんを家族として迎えておられる方ですと知っている人も少なくないのですが、人間以外の動物も加齢や腎臓病、ホルモンの病気や過度なストレスによる自律神経異常の影響で夜間頻尿になる事があります。
夜間頻尿は多尿・夜間多尿、膀胱容積の減少、睡眠障害の3つに分けて考えます。この内の睡眠障害っていうのは、睡眠に問題があって夜目が覚めてしまい、そのために「ついでにトイレに行っておくか」的な感じで夜間頻尿が起こる事を言います。これに関しては、厳密には泌尿器科的な夜間頻尿とは区別して考えた方が対応しやすい問題だったりします。
多尿・夜間多尿では、言葉通り尿量が多いので頻尿になります。現在5月ですが、もう昼間はポカポカなので、これから夏を迎える時期になると1日どれくらい水分を摂取した方が良いのか、という事をよく聞かれます。これは実は結構細かくて、体重以外にも年齢や食事内容・活動量とかで計算式が全然違うので、すぐに答えられませんが、大人だったら大体1.2~1.5Lくらいなんで、そのように伝えます。一方、多尿は計算が簡単で、24時間当たりの尿量が体重当たり40ml以上ある場合、「多尿」と言っていいんです。例えば、60kgの人であれば、1日の尿が2.4Lを超えると多尿である、という事です。
夜間多尿では、1日尿量のうち1/3以上が夜間に出る事を言います(若い人では1/5以上出るとそのように言ってよい事になってします)。1日の尿が1.5Lでも、夜中に700ml尿が出ていると、その人は夜間多尿なんですね。
多尿や夜間多尿の原因は水分過剰摂取を起こす精神科疾患や糖尿病、ホルモンの異常や高血圧、腎臓病、睡眠時無呼吸症候群や間質性肺炎(肺の壁が固くなってしまう特殊なタイプの肺炎)など多岐にわたります。思ったより泌尿器科以外の病気が出てきて、ちょっと驚きませんか? 「頻尿」の相談で来院した患者さんの最終診断が心臓病や肺、呼吸の病気の可能性があるっていうのは、なかなか興味深いところでもあります。
膀胱容量の減少っていうのは、膀胱が貯められる尿の量が減ってしまうって事です。「膀胱がちっちゃくなるってどういう事?」って思うかもしれませんが、あくまで「溜められる量」の事です。なので、例えば過活動膀胱という病気では尿が少ししか溜まっていないのに尿が出てしまいますので、結果的に膀胱が貯められる尿の量は減少した事になり、「膀胱容積の減少によって生じた夜間頻尿」と分類する、という事です。
過活動膀胱という病名はわりかし知られていますが、過活動膀胱を起こす原因に脳卒中や脊髄・パーキンソン病等がある事は、まだ十分な認知をされていません。脳と膀胱は、神経を通じて「まだ溜めていいよ」「そろそろ出していいよ」というやり取りをしてるんですが、脳や神経の病気になるとこの伝達ルートが故障してしまい、膀胱が勝手に(過剰に)収縮して急な尿意を起こしたりするんです。
他にも男性の前立腺肥大では尿が出し切れないので、膀胱内で有効に使用できるスペースが少なくなって頻尿を起こし、女性に多い骨盤内臓器脱では膀胱の位置がずれる事で過敏になり、頻尿を起こします。
また、膀胱の壁に炎症が起こる間質性膀胱炎という病気では尿が溜まって膀胱が伸びると強い痛みが生じるので、この痛みを回避するためにトイレへ行く回数が増える事になります。
最初は「たかが夜間頻尿」であった人も、ここまで読むと「されど夜間頻尿」という気持ちになってきませんか。全身の健康へとつながる、一番最初の相談先が「泌尿器科」であるという事は、実は珍しくなかったりするんですね。そうった相談先が当院であれば、なおさら良いなとも思いますね。