2026年4月21日

こんにちは。にじいろファミリークリニック安田です。
当院の副院長は泌尿器科の専門医です。このため、頻尿や前立腺肥大、膀胱炎症状などの相談に連日多くの患者さんが来られます。この相談の中に、性感染症の相談があります。
性感染症は俗的に「性病」と言われ、とてもデリケートな相談になります。患者さんの相談内容としては「尿道から膿が出る」や「デリケートゾーンのかゆみ・違和感」、「パートナーが感染したため」、ときには「脱毛サロンで指摘された陰部のデキモノ」といった形など、様々です。
性感染症の原因は多岐にわたりますが、その最も多い原因は「クラミジア」です。これは性感染症の半数程度に相当する約45%と、堂々の1位です。次いで「梅毒」(約20%)、14「淋菌」(約14%)、「ヘルペス」(約13%)、「コンジローマ」(約7%)となっています。梅毒は近年急増し、順位をぐんぐんと上げてきました。
クラミジアが多い理由として、強い感染力が挙げられます。クラミジアは一度の性行為で30~50%の確立で感染します。
「ほうほう、まあそんなもんか。」と思ってません?では、健常な成人の3~5%程度の人が保有しているとしたらどうでしょう。条件さえそろってしまえば、かなり簡単に感染拡大しそうな感じがしませんか?
このクラミジアは曲者でして、必ずしも症状が出ません。感染していても、女性の80%、男性の50~60%染者で無症状です。それなのに自然治癒せず、「無症状ならイイじゃん!」と思いきや、不妊の原因となったり、肝臓周辺や骨盤内に炎症を起こしてお腹の病気を起こしたり、目にうつる事で失明したりします。当然のように母子感染(母親から子供へうつる事を言います)もして、当然のように肺炎も起こします。かなりサイレントに人類を滅亡させようとしている感じがして、妙に不気味です。
紀元前1500年ころ(だいたい3500年くらい前)のパピルスに、「トラコーマ」という病気に関する記載があります。トラコーマがザラザラするという意味のギリシャ語を語源にもち、その言葉のごとく目にブツブツが出来るような病気の事です。
古代エジプトでは感染者の目ヤニに触れたハエが他の人に止まり、その手で砂埃が舞う中目をこするので、トラコーマが蔓延しました。このトラコーマの原因がクラミジアですので、クラミジアの事を正しくは「クラミジア・トラコマティス」と言います。この疾患は「失明に至るトラコーマ」と呼ばれ、恐れられて来ました。
このクラミジアは細菌ですので、抗生物質による治療が有効です。ですので、現在では世界の「予防可能な失明原因」の第1位であり、WHO(世界保健機関)では「SAFE戦略」という方法で、2030年までのトラコーマ根絶が目指されています。SAFEとは、手術(Surgery;逆さまつげ手術)・抗生剤(Antibiotics:抗生物質)・洗顔(Facial cleanliness)・衛星環境の改善(Environmental improvement)という意味です。
こういった具体的な改善策が示されたのはクラミジアが細菌である事が分かったからです。クラミジアは一般的な細菌に比べると、かなり小さいサイズなので、顕微鏡でみてもはっきり映ってくれません。
とういうのも、普通の細菌は栄養をエネルギーに変える機能をもっているのですが、クラミジアは進化の過程でこの機能を捨て、人のエネルギー(ATPといいます)を直接盗んで生活しています。このため、エネルギー発電用の部位や、それを作るのに必要な遺伝子も持っていませんので、めっちゃコンパクトに出来ています。その大きさは直径0.3マイクロメートルで、わかりやすく言い換えると、人の細胞が野球場くらいだとすると、ピンポン玉ぐらいの大きさに相当します。この小ささのおかげで体内の免疫細胞もクラミジアをちゃんと見つけられないので、簡単に感染を起こしてしまいます。
ギリシャ語で外套(男性が羽織るような短めのマント)の事をクラミュスと言うのですが、クラミジアに感染された細胞の中には封入体という膜ができるので、クラミュス→クラミジアと言われるようになりました。それでも感染された細胞の特徴は見えても、本体が小さすぎて顕微鏡にはっきりと映らず、クラミジアが発見された1907年にはウイルスであると考えられていました。先記したとおり、クラミジアは人の細胞内でエネルギーを盗まないと生きていく事も増殖する事もできませんが、これを小難しく言うと「偏性細胞内寄生性」と言います。普通の細菌は栄養を与えて育てる(「培養」と言います)と数を増やせるのですが、クラミジアは偏性細胞内寄生性という特徴の影響で培養で増やす事が出来ず、細菌ではないんじゃないかなーって思われていたんです。
ですが鳥から人へ移って肺炎を起こす「オウム病」という病気が1930年代に流行し、この研究が行われるとクラミジアの特徴的な増殖方法が判明しました。オウム病という病気の原因は「クラミジア・シッタシ」といって、性感染症のクラミジアの仲間なんです。この後、電子顕微鏡の登場で研究がさらに進み、1960年代にようやくクラミジアが細菌である事がわかりましたので、抗生物質が有効である事が判明したのです。
過去のマントを被った謎のウイルスは、現代では治療法が確立した細菌となりました。そでもなお、気づかぬ内での感染拡大で現代人を困らせています。感染予防・早期発見のための受診が大切なんですね。