2026年2月03日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
みなさん、睡眠時無呼吸症候群という病名を聞いた事があるでしょうか。睡眠をsleep(スリープ)、無呼吸をapnea(アプネア)、症候群をsyndrome(シンドローム)と言いますので、英語の頭文字をとってSAS=「サス」という呼び方が医療機関では一般的です。
夜中にいびきをかいている人って、意外に少なくありません。これも大人から子供まで見られる現象で、例えば子供でしたら扁桃腺の影響や鼻風邪による口呼吸の増加でもいびきは増えますので、全員が全員心配しなくてはいけないわけでもありません。SASは言葉どおり、「無呼吸」=「10秒以上の呼吸停止」が伴う病態の事であり、この無呼吸が1時間あたり5回以上認められるものを指します。
いびきをかいていると、「あら、熟睡しているわね、うふふ」と考える人もいるのですが、これは実は誤りです。というか、いびき自体が生物的に本当はおかしいのです。
睡眠中は当然無防備なので、本当はひっそりと眠るべきなのです。人間以外でもいびきをかく動物がいるにはいるものの、実際の野生動物ではいびきをかく動物がほとんどいません。まさしく、「今ここに無防備なごちそうが寝てまーす」と、天敵に知らせる行為であるためです。
では、人間がなぜいびきをかくのか、という事ですが、これは私たちの進化に紐づくと言われています。おサルさんって、ちょっと顔が長いというか、口回りが前に出ているような感じですよね。でも、このおかげで、空気の通り道である「気道」がそこそこ広いのです。一方僕たちは、おサルでいう所の口回りが引っ込んでいるので、そのぶん気道が狭くなっています。他にも、直立2足歩行となる事で喉の長さは伸びたので、空気を通す手間は増えた事も影響していると言います。二足歩行によって両手があいたので、火を使えるようになりましたが、すると柔らかいものを食べられるようになりましたので、顎は小さくなった影響で舌は居場所を奪われて気道側へ押し込まれるように収納されました。こうなれば、いびきはかくし、無呼吸も起こりやすくなる、という事です。
こういった理由がありますので、当然体格が大きい(=脂肪がつく)事が理由で喉が狭くなってSASを生じる人もいるのですが、痩せていたとしても元々(=遺伝的に)顔が小さい事が理由でSASになっている人もいるのです。現代食は戦前食の約半数回の咀嚼で摂取する事が可能だそうですので、みんながどんどん小顔になると、みんなどんどんいびきかいて、夜中には呼吸がとまっていくのかもしれません。
SASの治療法にはスリープスプリントというマウスピースの装着や電気刺激療法などもありますがが、一定以上の患者さんへはCPAP(シーパップ)というマスクの治療が一般的に行われ、このマスクが一定の圧力を喉にかけてくれるので、気道がつぶれるのを防いでくれるという代物です。松本清張の書いた「夜が怕い」の作中では、主人公の父のSASに関して「雷のようないびきが突然停止する」と、なんとも生々しい書かれ方をしていましたが、こういったいびきへの効果はかなり期待が出来ます。
このCPAPの治療はオーストラリアのサリバン先生によって考案されましたが、サリバン先生のお母さんがSASであったようであり、ある朝ベッド上で亡くなっていた様子を発見した事がきっかけで研究を始められたとの事です。研究を重ねた彼が作成したCPAPに使用されていた送気ファンは日立製の掃除機ですので(掃除機のファンを逆向きにもちいる事で空気を送っていました)、知らない所で技術がつながっている感じが、とてもジーンとくる話です。
SASの合併症としては高血圧や糖尿病、脳卒中や心筋梗塞/不整脈、突然死が良く知られていますが、実際はメタボリック症候群や腎臓病、認知症や不妊症、勃起不全なども合併します。また、骨格が関係している点から分かるように小児でも罹患し、子供の1~4%はSASである事がわかっています。小児SASは肋骨中央がへこむ「漏斗胸」や、中央が飛び出る「鳩胸」等の特徴的な胸郭変形がみられる事があり、症状としては学力低下や注意力散漫、発育障害等の影響が出る可能性が注意されています。
SASの治療にCPAPを用いた人では用いなかった人に比べて、心筋梗塞や狭心症での死亡率が低下していたというデータがあります。この死亡率低下は平均使用時間が3.3時間の人では現れませんでしたが、毎晩4時間以上使用できた人では死亡率低下効果が確認されていました。同時に、CPAP治療によって高血圧改善するデータや、血糖異常が改善するデータが報告されています。どうせやるなら十分な睡眠とともに合併症予防の効果も欲しい所ですので、いかに継続使用をするかというのは大切な点になるという事ですね。
これまでのCPAPでは、一部の患者さんで空気圧の不快感やマスクのフィット感が問題で長期使用できないという問題がありましが、最近ではより不快感のないような気流システムの開発がされたりもしています。きっと、現在の3Dプリンターの技術がより進めば、その人の顔に合わせたジャストフィットマスクをつくる時代がくると思います。
SASの治療はいびきをとめる事ではなく、生活の質改善や合併症の予防が目的です。いびきをかくほどつかれている人は、実はいびきをかいているから疲れているのかもしれません。「もしかして・・・」と思った人がいれば、相談しに来てみてください。