2025年12月30日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
年末年始は生活習慣や食事内容がいつもとは変わる、という人は少なくありません。お好きな方は日中からアルコールを嗜まれたりもしますし、いつもよりもよく食べたりもします。ある意味、年末年始を過ごす事に忙しくなるような、そんな感じがします。
この時期は食後に寝落ちしてしまう人も少なくなかろうと思います。「食べてすぐ寝ると牛になる」と脅かされるので皆頑張って起きてようとするのですが、やっぱり睡魔には抗えず、こたつで寝落ちする、というのがもはや冬の風物詩となっております。
「食べてすぐ寝ると牛になる」とは、すぐに寝ると角が生えるとか、体が大きくなるとか、そういった類の事ではなく、「胃の内容が食道に逆流しやすい」という事を意味した言い回しです。牛は「反芻(はんすう)動物」といって、一度飲み込んだものを再び口中にもどして、もう一回よく噛んで飲み込みますので、これに似たような事があるから、食べてすぐに横になるのは体に良くないよ、という事です。
牛のように反芻する動物はたくさんおりまして、例えばヤギやラクダ、キリン等がそれに当たります。そもそもキリンは牛の仲間で、「モーモー」と鳴きます。モーモー鳴きつつ、あの長い首で反芻を行うわけです。あの首の中を、エレベーターのように食べ物が上がり下がりしていると思うと、余計に感心してしまうわけです。反芻する動物の中でも、わりに努力して反芻しているような気もしますし、ダーウィンがキリンの進化に疑問をもった気持ちにも少し共感できます。
さて、胃の中身が食道へ流れてしまうというと、胸やけや飲み込み時のしみるような感じ等、種々の不快感がでるわけで、こういった症状が出る病気を「逆流性食道炎」と言います。これがなかなか胸部症状(=胸の前側に違和感をおぼえる症状)が出るため、心臓病を心配された患者さんからの相談をうける事もあったりします。
「たかが胃酸」と捉えがちですが、胃酸は塩酸が主成分なので酸性度は脅威のpH 1~2です。ですので、こんなものが流れてきて、「むねやけ」で済むというのがむしろ不思議なくらいです。ちなみに、食べ物を飲み込み違える肺炎ではなく、嘔吐したものを肺に吸い込んでしまう事で発生する肺炎を「メンデルソン症候群」と言いますが、これは胃酸による化学性肺炎を起こす疾患であり、なかなか重症な病気です。
逆に、よくpH 1~2の胃酸で胃袋そのものが耐えているというものです。もちろん胃も防御因子という物質をつくる事で胃酸に耐えてはいるのですが、「だから耐えて当然」という解釈もいささか傲慢な感じもしますし、胃が荒れようものなら「胃の職務怠慢」として減点法的評価をするのも心苦しいと感じます。彼は彼なりに頑張ってはいるのですから、胃薬でもつかってそっと見守ってあげたいものです。
一方食道ですが、こちらは胃酸に対抗する手段がありません。ですので、当然のように荒れるわけです。必然的に、あるいは予見された通りに、致し方なく食道炎となります。こういった時は食道を責めてもしょうがないので、酸を抑えたり中和させたりする薬を使用したりして対応します。
ここまで来ますと、キリンの食道は大丈夫?という動物を愛する方たちの心の声が聞こえてくるわけなのですが、ご安心ください。彼らは元気いっぱいです。
キリンも牛と同じように、胃袋が4つあり、この中で胃酸(pH 2~3)があるのは4番目の胃袋のみです。反芻で口に戻ってくるのは1番目~3番目の胃袋の中身ですが、この中身はpH 6~7くらいになっています。ミネラルウォーターや紅茶がpH 6くらいで、牛乳やアイスクリームでpH 7くらいですので、痛くも痒くもないのです。そもそも反芻と逆流は意味が異なる、という事ですね。
私たちはキリンではないので、2mの首で上下に反芻させなくて良いというのはうれしい限りなのですが、食べてすぐに寝ると逆流もするし食道も荒れるのです。
通常、酸を抑える薬として一般的に用いられる薬は内服を3~4日ほど続けないと効果が出ませんが、医療機関で処方する薬剤には内服から2~3時間程度で効果が表れるものもあります。年末年始で胃がつかれた、という場合はご相談ください。