2025年12月23日

こんにちは。
にじいろファミリークリニックの安田です。
先日、漢方薬で有名な製薬会社のツムラさんとご挨拶させていただきました。
西洋医学が広く普及している昨今は、この科学的な側面から漢方薬は改めて注目されており、現在の医学では重要な治療方針の一つとなっています。おどろく事に、よく目にする漢方薬は皆1000年~2000年の歴史があるらしいです。
そんな膨大な長い期間で淘汰されず、現在まで生き残っているのであれば、それだけで説得力があると言えます。「この薬は2000年にわたって今日まで人間の健康をサポートしてきました」というキャッチフレーズは、そこそこのパンチだと感じるのです。
そもそも「漢方」とは、「蘭方」と対になる言葉だそうです。蘭方とは、いわゆる西洋医学の事です。
しかし、個人的には「対になる」や、「対する」という言い方にはちょっとだけ違和感があります。なんとなく、「逆のもの」や「交わらないもの」、「陰と陽」、「北と南」、「右と左」という感じがしてしまうからです。漢方と蘭方とは、育ちの違いはありますが、根本で似ているところは多く、「兄弟のような関係」という表現の方が当たっている気がします。それぞれ、生薬が発展の基礎になっている点が共通しているんですね。
オオバコ科の植物に「キツネの手袋」とよばれる花があります。手袋というより、ベルのような薄紫色の花がたくさんついており、観賞用植物の一つです。なぜこれをキツネに?と思うほどに綺麗です。
この植物はドイツ人学者のフクスさんにジギタリスと命名されました。ラテン語では指の事を「digit=ディジット」と言います。なので、指で数えるように1、2、3と進んでいく時計はデジタルと言います。直腸内を指で診察する方法も「ジギタール」と呼ばれたりします。
「キツネの手袋」はベル状の花の形が指サックに似ているので、「ジギタリス」と命名されています。ですので、最初のころは「フクスの手袋」と呼ばれていたのですが、”フクス”→”フォックス”となって、現在の「キツネの手袋」へと、かなりキュートな呼び名に変化する事となりました。
大昔、西洋ではハーブや野草などを用いて調合された薬や毒が「魔女の秘薬」と呼ばれ、民間療法として実施されていた時代があります。ジギタリスは、そんな「魔女の秘薬」の成分の一つでした。「魔女が作る秘薬の材料が”キツネの手袋”」という、急なファンタジーの雰囲気にドキドキする人もいるかもしれません。ジギタリスは、そんなドキドキに効果がある、心不全の治療薬です。綺麗で特徴的な花なので、この花に秘密がありそうですが、薬の成分は葉にあります。
イギリスのとある地方では以前から浮腫をとる薬としてある“秘薬”が使われていました。そんな中、1775年にスコットランド人医師のウィザーリングさんが強い浮腫の患者さんを診察しています。
当時、高度な浮腫に対する治療が十分に確立されておらず、その患者さんは回復見込みなしと診断されました。しかし、しばらくしてウィザーリングさんはその患者さんの浮腫が回復してお元気になった姿を見たらしく、すごく驚いたそうです。
当然、ウィザーリングさんは患者さんに、経緯を聞きました。この結果、患者さんがシュロプシャー(イギリスの地名です)で民間療法をうけたというお話を聞き、すぐにこれを調べたそうです。
歴史的には、治療を行った民間療法師は「シュロプシャーの老女」と記録されています。この「シュロプシャーの老女」という記録しかのこっていないところが、なんとも興味をそそるところです。
ウィザーリングさんが訪ねた当初は内容を全然教えてくれなかった老女ですが、度重なる彼の熱意に負け、とうとう秘薬のレシピを教えてくれました。この秘薬には約20種類の薬草が配合されていましたが、ウィザーリングさんは薬の主効果がジギタリスにあった事を早々と特定しました。
大学で植物学の研究もしていたウィザーリングさんは、そもそも薬草にかなり詳しい人でした。また、ジギタリスを飲んで嘔吐した人を見たことがあったそうです(ジギタリス製剤は嘔吐などの副作用がでる薬です)が、シュロプシャーの老女はウィザーリングさんに「この秘薬は浮腫みをとる代わりに、吐き気がする」という事を伝えており、これを聞いてウィザーリングさんはピーンと来たらしいのです。これはどこぞの少年探偵に匹敵する推察力であり、驚くべき洞察力です。
当時は時代背景として民間療法がやや軽んじられる傾向にもあったわけですが、これを近代医学というハードルの高い”お堅い医学界隈”へと運び入れた功績は大きなものと言えますし、偶然にしては出来すぎている運命的出会いと言えます。ウィザーリングが主人公なら、朝ドラが組めてしまうくらい、良くできた・運命的な話だと思います。
ウィザーリングさんはジギタリスの効果を見出した後も、薬剤の抽出や配合を研究する事で薬の「さじ加減」を見つけ出し、結果としてジギタリス製剤は「ジゴキシン」や「ラニラピッド」と呼ばれる薬剤としても現在でも広く浸透する事となりました。
彼の元へは副作用の報告も多く集まったそうで、ウィザーリングさんは友人のストークス先生とともに副作用に関する注意喚起も行ってきました。ストークス先生は不整脈・失神界隈では名の知れている「アダム・ストークス症候群」の名付け親です。すごく良い意味で、同じアナのムジナっていう感じがして、「優秀な人の友達は優秀だね~!」って感じがします。私はこの話が、よく出来たドラマを見ているような気がして、とても好きです。
今回は、生薬と西洋・現代医学の共通性に関する話でした。どうでしょう皆さん、漢方と蘭方が、なんとなく似ている気がしてきませんか?なんとなく、漢方薬の併用も悪くないな、と感じてきませんか?
幸運にも、現代では魔女がフラスコを振るかの如く、漢方と蘭方は大親友の関係にあります。当院でも当然、漢方薬・西洋薬を併用した最適化医療を提案いたします。温故知新が座右の銘であるあなた!是非とも当院へいらっしゃってください!