心臓カテーテルという熱意の科学|にじいろファミリークリニック|東村山市久米川町の内科・循環器内科・泌尿器科

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心臓カテーテルという熱意の科学

心臓カテーテルという熱意の科学|にじいろファミリークリニック|東村山市久米川町の内科・循環器内科・泌尿器科

2026年4月07日

心臓カテーテルという熱意の科学

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。

このコラムを掲載する4月7日は、「世界保健デー」です。というのも、よく耳にするWHO(World Health Organization:世界保健機関)が設立されたのが1948年4月7日ですので、WHOの誕生日にちなんで設定された日なんです。この記念日のテーマは毎年異なるものが掲げられますが、2026年のテーマは「Together for health. Stand with science(科学に基づき、みんなで健康に)」となっています。科学によって日々進化している医療は、その使い方も当然科学に基づくべきであり、根拠のある医療で健康増進していこう、という事ですね。

この医療を推し進めている科学ですが、最初からメガネをかけて白衣をきた研究員が、試験管を振っていたわけではなく、初めのころは泥臭く体を張り、文字通り「血と汗と涙」を集結させた情熱的なものである事が多いです。歴史がスキな人は医療の成り立ちにもハマると思います。

私は循環器内科医ですが、この分野も超音波職人(エコー検査専門)や機械植え込みマン(ペースメーカー専門)、電気屋さん(不整脈専門)、建具戦隊(弁膜症専門)など、その他にも様々なさらなる専門性があります。当然これらの敬称は私が勝手に今つけましたが、意外に不整脈専門の先生の事を「電気屋」と呼ぶ事は実際の現場でも多かったりします。このうち、狭心症や心筋梗塞の治療を専門とする人たちを「カテ屋」と言ったりしますが、この「カテ」とは「カテーテル」という医療器具の事です。ギリシャ語で「挿入する」という意味の「katheter」を語源とし、ラテン語やドイツ語に派生して、「人の体へ挿入する細い柔軟な管」の事をカテーテルと呼ぶようになりました。

「狭心症」は心臓の血管がコレステロールのコブ(プラーク)や血管そのものの痙攣によって細くなる事で心臓に酸欠が起こる病気です。悪化すれば、酸欠によって心臓の筋肉が壊死してしまう「心筋梗塞」も起こしてしまう事があります。

狭心症や心筋梗塞へ対する治療であるバイパス手術が初めて成功したのは米国トップクラスの病院であるクリーブランドクリニックで、これは1967年の事です。これは革新的治療でしたが、この手術は時間や手術リスクの観点からある程度体力のある一部の方に限られた治療法でした。昨今はこの技術は飛躍的に進歩していますが、昔の手術は弱った高齢者が受けられるようなものでは必ずしもなかったのです。しかしある時「カテーテル治療」という技術が産声を上げ、ここから狭心症・心筋梗塞の治療は劇的変化をとげ、合併症の多い高齢者でも安全な治療が受けられるようになりました。

1929年のドイツには、医師国家試験に合格して研修医になったばっかりのヴェルナー・フォルスマンという先生がいました。

彼が感銘をうけていた医師に、フランス人医師のクロード・ベルナールがいたのですが、ベルナールは歴史上で初めて生きた動物の心臓へのカテーテル挿入を成功した人物です。ベルナール先生が行った実験は、馬の頚動脈にカテーテルとして温度計を挿入し、心臓の中の温度を測定したもので、これを読んでひらめいたフォルスマン先生はとある実験をやりたくて仕方なかったのです。

この実験とは「生きた人の心臓のカテーテルを入れて、直接薬(強心剤)を入れたい!」というものでした。ちょっとヤバい奴だな、とは私もさすがに思います。

そして、とうとう訪れたXデーに、フォルスマン先生はなんと自分の腕にカテーテルを挿入し、もう一方の腕でこれをズンズンと心臓まで進めたんです。そうです、かなりヤバい奴です。ちなみにこの時使われたカテーテルは膀胱内の尿を排泄させる時に使われる「尿管カテーテル」です。激ヤバ野郎というご意見をいただいても、おかしくありません。

その後、腕からチューブをぶらんとさせながらレントゲン写真をとって、カテーテルが心臓まで到達している事を確認したんです。この写真は現在も医学書に掲載される有名な写真です。

鼻息荒く成果を報告したフォルスマン先生でしたが、教授達から「サーカスの見世物のような行為である!」と罵倒され、失意の中で研究室を追放されました。

しかしその27年後、フォルスマン先生が立っていたのはノーベル賞授与式の会場です。

フォルスマン先生の実験からしばらくして、アメリカで呼吸生理学の検査をしていたクルナン先生、リチャーズ先生がカテーテルによって心臓内の血圧や酸素の値を測定し、これが画期的研究と称賛を受けました。この時カテーテルを人間の血管に入れた最初の人についての議論がなされたんですが、27年前の腕からチューブがぶらりん写真が残っており、これが決め手となって1956年にフォルスマン先生はノーベル生理学・医学賞を受賞しました。これも本当に、映画を見ているような気持ちになる話です。

同じ時代に生きていたら、私も当初はフォルスマン先生を激ヤバな奴と決めつけていたかもしれません。しかし、彼はあらかじめ死体を使ってカテーテルの位置や走行の確認や事前実験を行って、当日の自己人体実験を行ったんです。熱意の中にしっかりと冷静さをもった人だったんです。

狭心症に対するカテーテル治療は1977年にスイスで初めて行われました。この治療が日本で初めて行われたのは1981年、北九州の小倉記念病院で、まだ45年が経ったばかりです。当時から今日に至るまで、今もなお情熱的で冷静な激ヤバな人たちが、科学を礎としてこの技術を進化させていると思うと、ロマンに胸が熱くなる思いです。

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