善玉とはいえギルティ|にじいろファミリークリニック|東村山市久米川町の内科・循環器内科・泌尿器科

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善玉とはいえギルティ

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2026年3月17日

善玉とはいえギルティ

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。

よくコレステロールの事を善玉だの、悪玉だのと表現する事があるかと思います。この、善玉コレステロールと呼ばれているのは、HDLコレステロール(HDL-C)です。

HDLは「High Density Lipoprotein(ハイ デンシティ リポプロテイン)」の略で、リポ蛋白の比重(密度)が高いという意味です。コレステロールは油なので、血液のような水分には溶けてくれませんので、アポ蛋白と呼ばれる蛋白質とくっついて血液中を移動しています。この、コレステロールとアポ蛋白が結合したものを、リポ蛋白と言い、こうなると水に溶け込めるようになります。

HDL-Cは血管に溜まったコレステロールを回収してくれる作用がありますので、コレが高いのは、一般論的には良いことです。ですが、検診でもたびたびHDL-Cが異常に高い状態ですと、再検査を指示され、そういった患者さんが「ナゼ?」という表情で外来へいらっしゃいます。という事で、「HDL-Cが高い」という事に関する話をしようと思います。

HDL-Cはお酒を良く飲む人で上昇してしまいます。アルコールを摂取するとHDL-Cの材料になるアポ蛋白が肝臓で盛んに作られるようになるためです。HDL-Cには中性脂肪も含まれており、アルコール多飲は中性脂肪の合成を極端に促進しますので、極端に増加した中性脂肪をHDL-Cで中和しようとするんですね。ですが、アルコールを慢性的に摂取していると、HDL-Cは中性脂肪を手放せなくなってしまいます。通常、HDL-Cは運んでいる中性脂肪を「コレステリルエステル転送タンパク(CETP)」という酵素を用いて他のリポ蛋白へと転送するのですが、慢性的なアルコールはCETPの働きを低下させてしまうのです。よって、どっさりと中性脂肪をかかえたHDL-Cが肝臓に到着しても、だれも荷物を引き取ってくれない状態になるという事ですので、HDL-Cは役目が終えられず、いつまでも血液中に残る事になります。このように、アルコールでHDL-Cが増えて、分解されずにとどまってしまうという影響により、HDL-Cが上昇していきます。これは、中性脂肪で手一杯のHDL-Cが増えているだけですし、そもそも「飲酒による一時的な異常高値」ですので、全然いいものじゃありません。

他にも、甲状腺機能亢進症や原発性胆汁性肝硬変、一部の薬剤の影響でもHDL-Cは上昇します。甲状腺機能亢進症では体内で脂質の分解・排泄のスピードが速まり、またアルコールと同じようにCETPの働きも低下してしまいますので、HDL-C値が高く維持されます。原発性胆汁性肝硬変とは自分の免疫によって肝臓の中にある胆管を壊してしまう病気の事ですが、この胆管破壊の過程で「リポ蛋白X」と呼ばれる通常は存在しない、何ならちょっとカッコイイ名前のリポ蛋白が血液中に出てくるようになります。このリポ蛋白Xは検査システム上、HDL-Cとしてカウントされてしまいますので、血液検査上のHDL-C値が上昇してしまう、という事です。薬剤でHDL-Cを上げる作用があるものとしては、ステロイド(異常免疫を抑える薬)やインスリン(糖尿病治療薬)、フェニトイン(てんかんの薬)等が挙げられます。

ですので、高HDL-Cで相談された場合はアルコール摂取状況や甲状腺機能の評価、糖尿病治療などの使用薬剤状況、肝臓病の確認などをして、治療や管理が必要な場合はそれを検討するという事になるのです。

でも実を言うと、だいたいの人は体質的にHDL-Cが高いだけです。体質的にHDL-Cが高いという病気は、1970年代にアメリカで報告されました。ある村では平均寿命が長く、この人たちを検査したところHDL-Cが皆高く、当時は長寿症候群(Longevity Syndrome)と言われました。現在これは「家族性高αリポ蛋白血症/低βリポ蛋白血症」という、なんともロマンのない呼び方がなされています。個人的には「長寿症候群」と言われた方がうれしく感じます。

当然、家族性という事ですので、つまりは遺伝子に原因があるのですが、欧米ではLIPGやAPOA1という遺伝子の変異が原因である事が一般的で、基本的には高HDL-C状態が心臓に対して保護的に作用しているのです。

一方でこの遺伝的な高HDL-C血症は日本人にも多くみられますが、その原因はCETP遺伝子変異というものなのです。「原因遺伝子が違うだけでHDL-Cが高いならいいじゃん!」というご意見も聞こえてくる気が致しますが、コレがそうでもないので要注意です。

 

先ほど私が挙げた、甲状腺疾患やアルコール影響、肝障害や薬剤影響といった事が原因の高HDL-Cは実は少数派でして、日本人の高HDL-Cは7~8割が「CETP欠損症」と言われます。そろそろ、「アレ?CETPってなんだっけ?」となっているかと思いますので、略さずに記載すると、「コレステリルエステル転送タンパク欠損症」です。

CETPはHDL-Cが抱えているコレステロールを他のリポ蛋白にバトンタッチするための酵素なので、これが欠損するとHDLはコレステロールを抱えすぎて、巨大HDL-Cに変化します。こうなると本来の善玉としての働きは鈍り、血管に散らばるコレステロールをうまく回収出来ません。大きなHDL-Cは血管から肝臓に戻る効率も悪いので、結論から言えばHDL-Cが高いのに狭心症や動脈硬化のリスクがかえって高まってしまうのです。

 

現時点でCETP欠損症に対する治療法は確立されておりません。そもそも通常は治療が不要なのですが、動脈硬化リスクが高い状態では食事・運動療法や通常の高コレステロール血症と同じ薬物治療が行われます。動脈硬化から身を守ってくれるHDL-Cが保護因子として作用していないので、その他の方法で血管保護をする、という事です。

検査数値が正常値から外れたら、それが一見無害なように見えたとしても、相談に来てくだされば、と思います。

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