2026年2月24日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
「動悸がする」という症状でいらっしゃる方は、意外に少なくありません。
いや、少なくないどころか、とても多くおられます。
動悸とは、「自分の心臓の鼓動を強くor早くor不規則に感じるような状態の事」を言います。通常私たちは生活の中で自分の心臓の動きは感じませんので、「違和感をおぼえる形で心臓の動きを認識する状態」=「動悸」と考えてよい、という事です。
言葉通りでいくと、動悸を説明する際に対象となっている臓器が「心臓」なので、心臓の診療科へ受診されるケースが多いという事になります。ですが、動悸だから心臓の病気であるというわけでもなかったりします。
心臓の病気以外の動悸として分かりやすいものでいうと、「人前で発表する際、緊張して胸がドキドキした」というケースなどがあります。緊張やストレス以外にも、睡眠不足やカフェイン・アルコールの摂取でも動悸を感じたりします。
他にも、貧血や発熱・感染症、甲状腺の病気や低血糖などが原因でも動悸は起こりますし、もちろん不整脈や狭心症、心臓弁膜症などの心臓の病気であっても動悸症状が出ます。こうなると当然、割合が気になるところかと思いますが、動悸の原因が心臓の病気である場合は全体の40%程度と言われておるわけです。
「じゃあ、貧血や発熱、低血糖などが多いのかしら?」と思われるかと存じますが、この辺をよく調べてくれたAbbott先生によると、動悸原因としては心臓の病気が約40%、次いで精神科疾患が30%、その他の病気(貧血や発熱、甲状腺異常など)が原因であるのは10%程度という事なのでした(Abbott AV. Diagnostic approach to palpitations. Am Fam Physician 71:743‒750, 2005)。残りの20%はといえば、なんと「原因不明」という形でしたし、私としては「原因不明」は「その他の病気」に含めてしまって良いような気もするのですが、この「原因不明」とされた人の中にも本当は心臓や精神の病気である人がまざっているかもしれないので、これは一応「原因不明」という事で納得しましょう。
「ほれ見たことか!動悸の原因として最多なのは心臓の病気ではないか!」と感じる人も、「動悸として来院する患者さんの60%は心臓の病気ではなく、その中の2人に1人は精神科的な問題が原因である!」と感じる人も、両方とも間違ってはいません。「この動悸は心臓病が原因っぽいな~」とか、「これは違う感じがするな~」とか、印象のようなものを感じる事も当然ありますし、心臓病っぽい感じの相談をうけるのが苦手と感じる先生では、「ほれみたことか!」という意見に賛成なのかもしれません。
ですが、大切な事は「動悸で来院する人の8割で、何らかの原因が見つかっている」という事の方なのです。「こんな感じの動悸だから僕は診れないな~」とか、「そういった感じの動悸だったら私じゃないかな~」とかではなく、とりあえず、誰かが一度みて、心臓病っぽいのか、精神科っぽいのか、それ以外っぽいのかを判断すれば良い、という事なのだと思います。そうすれば、原因が判明した10人中の8人には何らかの対策を立てる事が出来る事になります。
「心臓の病気が怖いから来ました!」という患者さんもいる事はいるわけで、お気持ちはとても良く分かります。「まあ、確かにそうだよね」と言いたくなります。心臓の病気っぽい動悸は問診・診察の時点で大まかに見当がついたりしますが、こちらが何となく経過を聞きながら注意しているキラーフレーズもあり、そういったものがあると「さては、心臓病系の動悸だな!」と思うわけです。例えば、「急に始まった動悸がなかなか良くならない」とか、「動悸と一緒に胸の痛みやふらつきがある」とか、「じっとしていても頻繁に動悸がある」とか、「脈が極端に速いorリズムが不規則」とかです。
動悸の相談で受診した患者さんが、血圧もコレステロールも高く、動悸と一緒に胸の痛みもあるのであれば、心臓病の可能性があると見てよいのです。仕事で疲れている女性が夜中に何となく心臓が脈打つ違和感を覚えているのであれば、それはもしかしてストレスなのかもしれません。
もともと私たちの体はストレスや恐怖を覚えると、これに対応するために神経バランスが変化します。この時は「交感神経」と呼ばれる頑張るための自律神経が活発になり、結果として心拍数や血圧が上昇するのです。心拍数や血圧が上昇すると体の血のめぐりが良くなり、外敵と戦ったり天敵から逃げる事が出来るようになります。また、病気や疲労の際にも心臓が頑張って脈打つ事で体調不良をサポートし、休息を促すために目安にもなったりもしてくれます。動悸は私たちの先祖が荒ぶる太古の時代を生き残るために必要だった反応なんですね。現代社会で私たちはマンモスやライオン、ティラノサウルスにおそわれる心配はありませんが、多様性の変化を通じて慢性的なストレス環境にさらされており、本来は闘争/逃避に必要な動悸反応は、いとも簡単に過剰発動してしまうのです。
当院では動悸に対して心電図検査や血液検査に加え、超音波検査や24時間ホルター心電図検査を適宜行います。これらは心臓病へ対する検査なのですが、この検査で異常がないと分かっただけでも「安心」してくれる人もおり、この安心が不安を減らしてくれると動悸が改善する人だっているのです。
ゼロかプラスにしかならないのであれば、検査にも意味があるのかもしれませんね。