2026年3月31日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
当院の副院長は泌尿器科専門医ですので、これまで腎臓や膀胱の摘出手術や尿路結石の除去手術等をおおく実施してきました。この中には包茎の手術もあり、デリケートな部位ですが、縫い傷がとてもキレイであった事を覚えています。
包茎とは陰茎先端の亀頭と呼ばれる部分が周囲の包皮に覆われて完全に露出できない状態の事で、日本人男性では70~80%程度と大部分の方が包茎です。つまり、「包茎である事が普通である」と思ってよい、という事なんです。今回はこの話題でコラムを書いていこうと思います。
エジプトの壁画には、陰茎包皮を切除する手術の場面が描かれています。エジプトの男性ミイラの多くで、包茎手術を行われた形跡が見つかっています。これは「割礼(かつれい)」と言われる儀式なのですが、この事からわかるように、だいぶ以前から行われていました。
古代エジプトの葬祭文書である「死者の書」によると、古代エジプト神話の最高神は「太陽神ラー」ですが、ラーは他者と自らの体を傷つけたりして他の神々を生み出す事が出来たそうです。この中で、ラーが自らの包皮を切った事で滴り落ちた血液から「フー」、「シア」という神が生まれたという内容の記載があります。この記載は「割礼」という行為に対して聖なる根拠を与え、宗教的儀式として行われる形となりました。
実際はその他にも割礼には肉体清潔を保つという目的があり、古代エジプト等の水資源の乏しい地域では十分な体の清潔が保てず、そうなると余った包皮の内側に恥垢(ちこう)が溜まって病気の原因になったりしたので、これを予防するために割礼を行っていたんです。
この習慣は周辺のアラブ地域へも広がり、最終的には信仰対象の異なるイスラム教(信仰対象はアッラー)やユダヤ教(信仰対象はヤハウェ)でも「割礼」が行われるようになったという事です。
キリスト教の多い欧米では、こういった宗教的儀式としての割礼は行われませんでしたものの、自慰行為を抑制するために、やはり包茎手術は行われていました。昔の欧米では自慰行為は道徳的に罪悪と考えられており、自慰行為を継続すると記憶力が下がったり心臓の病気になったりすると思われていたんです。当然、医学的根拠ゼロの思想なんですが、当時は本当に信じられていたので、この手術は割と盛んに行われていました。現在でも盛んに行われているのですが、手術の主な目的は性感染症や陰茎ガンなど病気を予防するためです。これにはちゃんと理由があって、やっぱり衛生状態を保てていないと雑菌が繁殖したり慢性的に炎症がおこったりするので、そうすると性病を患ったり癌が発生するんです。
つまり包皮が悪いのではなく、不潔が悪いという事なので、水資源の潤沢な日本ではさほど問題になる事もなかったのです。ですが一方で江戸時代の書物には「包茎が恥」という内容の記載もあり、たしかに当時流行した春画(男女の性行為を描いた絵)には勃起した男性の陰茎が”むけた状態”で描かれており、どうやら「”むけた陰茎”が男らしい」という観念はあったようで、江戸っ子のプライド的なものを感じます。
だからといって手術をしていたという事ではなかったのですが、昭和50年代以降の日本では「包茎=不潔」という内容の記事が多数の週刊誌で特集されるようになり、このネガティブなイメージによってコンプレックスをもつ男性が急増しました。これは美容医療業界が手術需要を作り出すための「コンプレックス産業」だったのですが、同様の価値観が人為日的に広められた事で、自由診療での手術件数はまんまと増える事になりました。仮性包茎も治療すべきという風潮は世界的には珍しいものであるはずなんですが、マスメディアの恐ろしい影響力を感じます。
本来医学的に手術を必要とする包茎とは、真性包茎(包皮出口が狭く、勃起の有無によらず常に包茎の状態)やカントン包茎(無理やりめくった包皮が亀頭を締め付けて元にもどらない状態)、あるいは反復性亀頭包皮炎(包皮の不衛生で何度も感染を繰り返す状態)です。包茎全体の80%に相当する仮性包茎(平常時は亀頭が包皮に覆われているが手をつかったり勃起をする事で亀頭を露出する事ができる状態)は、清潔を保つ事ができれば手術は不必要です。
包皮の事を「皮が余っている」と言う人がいれば、是非とも誤解をといてあげたい程であり、実際に包皮には数千におよぶ神経が集まっており、高感度の感覚器官である事がわかっています。これは進化する過程で、デリケートな部分の保護と外部刺激の察知を同時にするためであると考えられています。
人体の解剖の精通していたミケランジェロが手掛けたダビデ像は「男性美の極致」とされています。このダビデ像のモデルとなった古代イスラエル王のダビデはユダヤ人ですので、幼少期に割礼を受けているはずです。それにもかかわらず、ダビデ像の陰茎は包茎の状態で彫られています。これはルネサンス期の芸術に「本来の肉体こそ美しい」という美意識があったからです。ですので、おそらく多数派である仮性包茎の方は「これこそ肉体美!」と自信をもって下さい。ここまで読んで「もしかして治療が必要なのかも?」と思われた方は、一度診察をうけにいらっしゃって下さい。