2026年3月24日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
最近、ニュースで「麻疹」が取り上げられており、注目されています。
麻疹は「はしか」として知られている感染症です。関西や東海地方の方言で「チクチクとかゆい状態」の事を「はしかい」と言いますが、これが語源とされます。
過去の日本でもたびたび流行し、管理技術がなかった当時は多くの人が命を落としました。この感染症は「7歳までは神の子」という古い言葉が生まれる理由となりましたが、これは「子供の命は神が握っており人間が努力できるものではない」という当時の人々の悔しい気持ちが込められた表現です。
麻疹の問題は強い感染力・治療法の乏しさ・合併症発生率の3点です。
まずこの感染力ですが、感染症に関する感染力は基本再生産数という数字で表現します。カッコつけると、ベーシックリプロダクションナンバーとか、R0(アール・ゼロ)と言います。私はカッコつけて、”R0”を言わせてもらっています。R0は「まったく免疫を持っていない集団の中で1人の感染者が平均何人の2次感染者を発生させるか」という数字です。そして麻疹のR0は16~21です。一人の麻疹患者が16~21人にうつしてしまう感染力があるという事です。ピンときませんよね?
ですので、わかりやすい比較をするのであれば、例年大流行するインフルエンザのR0が1~3という所でしょうか。また、パンデミックという言葉を浸透させるほど世界中で大流行した新型コロナで、R0 2~2.5程度です。もうね、書いていて恐ろしくなります。言葉通り、「比較にならない」ほどの感染力があり、免疫がない人であれば移っていないと考える方あ難しい数字です。そして当然のように、マスク・手洗い・ソーシャルディスタンスで防げません。感染経路は接触感染・飛沫感染・空気感染のすべてですので、咳・くしゃみがかかるとかではなくて、同じ空間にいるだけで感染する、マジの方の「空気感染」です。
麻疹の病期(病状の変化の事です)は潜伏期・カタル期・発疹期に分かれます。カタルっていうのは古代ギリシャ語が由来の「粘液がたれる」という意味の医療用語ですので、「風邪っぽい」という表現と理解してください。
麻疹の潜伏期間は10~12日程度の長い潜伏期間を終えると38度くらいの発熱が始まりますが、弱いながらも抵抗力があるような人(十分な免疫になってない人)では潜伏期間が20日を超えたりします。この発熱とともにだるさ、喉の痛み、目の充血・痛みなどが出てきますので、この期間を「カタル期」というのです。もうね、ただの風邪にしか見えません。だいたい2~4日くらい続きます。それで、このカタル期が終わる頃に、ほっぺの内側の奥歯の近くに、1mmくらいのちっちゃい白いブツブツが出来ます。これはアメリカ人の小児科医であるヘンリー・コプリック先生が見つけた特徴なので「コプリック斑」と言います。
このカタル期が終わるといったん解熱するので、なんかよくなった感じがするのですが、そこから半日くらいでもう一回発熱し、今後は39~40度近くまで発熱します。これも二峰性発熱と呼ばれる特徴的な経過で、この時に発疹が体中に出ます。この期間を発疹期というのですが、発疹期では咳・鼻水症状もつよく、下痢とかも出たりします。あとは口の中が荒れて痛むので、だいたい3日ほど続く発疹期では発熱+食欲低下のダブルパンチで脱水状態になる人がいます。麻疹は発症の前日から解熱後3日程度まで感染力がありますが、特にカタル期~発疹期で強力な感染力を持ちます。日本では学校保健安全法施行規則により下熱後3日を経過するまでは出席停止です。
最近は麻疹の2回目のワクチン接種をちゃんと受けていない人もおりますが、こういった不十分な免疫力の人に発症する麻疹を「修飾麻疹(しゅうしょくましん)」と言います。修飾麻疹では発熱・カタル症状・発疹がちゃんとそろってなかったり、症状が軽くすむ人がいたりするので、診断が難しくなります。それなのに、周囲への感染力はあるのです。
先記のごとく有効な治療方法はないので、対症慮法という「症状に対してその都度対処する」という治療しかなく、カタル期の眼の症状が原因で失明する方もいれば、麻疹発症から数年後に起こる後遺症である亜急性硬化性全脳炎という病気が発症する人もいます。この亜急性硬化性全脳炎の死亡率は100%です。そうでなくとも、麻疹はウイルス性脳炎という急性脳炎を起こす病気ですので、これを起こすと6人に1人は死亡しますし、3人に1人は後遺症が残ります。麻疹による免疫低下で生じる肺炎は合併症の約半数を占めており、妊娠中に麻疹にかかると60%程度の確率で母体か胎児に何らかの合併症が出ます。
麻疹になるとビタミンAが低下してしまうのですが、このビタミンAは粘膜の保持や免疫力の維持に必要な物質です。ですので、麻疹にかかるとビタミンAを補充し、気道組織の修復や免疫力の維持に努めます。目で光を感知するための物質であるロドプシンはビタミンAが主成分なので、目の合併症を予防する作用もあります。
また、有効な治療というほどではありませんが、麻疹患者と接触した事がわかった場合は、緊急ワクチン接種を行って重症化を予防したりします。この緊急ワクチン接種は免疫不全や6カ月未満のお子さん、妊婦さん等ではできませんので、そういった方へ対しては免疫グロブリンという輸血製剤を投与して免疫力のサポートをしたりします。
2015年3月に世界保健機構(WHO)から日本が麻疹排除国と認定され、11年が経過しようとしています。この背景には、国を挙げてのワクチン接種推進の努力があります。親日国で有名なカナダは、2024年の秋に麻疹が流行し、WHOからの麻疹除去認定が2025年11月に取り消されていますが、この理由の一つに低いワクチン接種率が挙げられています。
瞬く間に感染拡大し、有効な治療対策の無い麻疹に対する唯一の最も確実な手段は、「ワクチン接種」です。もしまだ2回目まで接種されていない方がおられれば、ご相談ください。