2025年12月16日

こんにちは。にじいろファミリークリニック、安田です。
秋が過ぎると健康診断結果の相談という形で受診してくださる患者さんは多くおられます。私のところへは血圧やコレステロール値、血糖異常や心電図異常等を主な相談内容とされている事が多いです。
コレステロールはそもそもホルモンやビタミンDを作るために必要な物質です。また、しょうゆラーメンの油が如く、集まって膜を作る性質があり、細胞の材料になります。私たちの細胞は細胞膜とよぶ薄いラップの様な膜でできた水風船になっているのですが、この膜をコレステロールが作ってくれます。他にも、コレステロールは胆汁酸という消化液の原料で、これは脂質の吸収を補助します。
以上のようにコレステロールが行う役割はとても大切なものですが、原始の時代ではいつでも簡単にコレステロールにありつけるわけではありませんでしたので、体内ではコレステロールを維持する働きがあります。肝腸循環とよばれており、肝臓から胃腸へと排泄されるコレステロールの約90%が、再び腸で吸収されてリサイクルされています。
よく検診等でチェックをうけるのが、LDLコレステロール(以下、LDL-C)という、いわゆる悪玉コレステロールです、動脈硬化と深い関係性があります。血管の内側はタイル張りのようになっていて、つるつるで綺麗です。ですが、血圧の影響やニコチン・一酸化炭素の影響をうけると、このタイル壁にキズが入ってしまいます。このキズの隙間から、LCL-Cがしみ出し、タイル壁の裏に溜まるのです。この溜まったLDL-Cはすぐに古い油のような悪質な物質に変化してしまうので、体にとってみれば雑菌同様の部外者です。ですので、異物へ対する生体反応が起こります。
LCL-Cが溜まると、普段は雑菌を倒してくれるマクロファージ(免疫細胞)が、「俺に任せろ!」と言ってここぞとばかりにLDL-Cを取り込んでいきます。本当はここでカッコよく「デュワッ」とM78星雲へと去ってくれればいいのですが、なんとマクロファージはその場で死滅していくのです。そして、彼らの屍が重なるように堆積し、動脈硬化の正体である「プラーク」が出来上がります。
プラークにはやがてカルシウムがくっついていき、最終的にザ・動脈硬化という”硬い血管”になるのですが、硬い血管は動脈硬化の「とある段階」ですので、プラークがある段階から動脈硬化という事になります。
プラークは表面の炎症が強いと破れる事があります。すると、破けた部分で血液が固まり、血液が流れなくなってしまいます。これが心臓の血管で起これば、その人の人生を左右し得る「心筋梗塞」という病気につながります。ですので、生活習慣病としてのコレステロール管理は重要と言われるわけです。
ここまでの点に関しては微塵も疑問はありませんが、私はかねてより、この「生活習慣病」という表現に悶々としています。
2024年5月、European Heart Journalという欧州の学会誌にミイラの動脈硬化に関する報告が掲載されました(Atherosclerosis in ancient mummified humans: the global HORUS study.)。エジプト以外にもペルーやイヌイット、オーストラリアやアメリカ等の広い地域のミイラを対象に調査が行われ、結果として男女差や階級差によらず、約40%のミイラで動脈硬化が確認されたそうです。少なくとも私は黄金のマスクもつけないし、日常的にケバブを食べませんので、そういった意味では古代エジプト人とは生活習慣が異なります。であれば、本当に現代の生活習慣が動脈硬化を起こしていると言ってよいのでしょうか。
また、以前は生活習慣病を「贅沢病」と呼ぶ事もありました。これにも、悶々なわけです。
マルクス主義でいう所のブルジョワジー(資本家階級)vsプロレタリアート(労働者階級)の構造は、昨今のように働き方が多様化した時代では成り立たない事もしばしばあるでしょうが、それでも”現代のプロレタリア”と言える立ち位置の方は多くおられます。現代のブルジョワは健康によいオーガニックサラダを食べて、パーソナルジムに通いストレスと運動不足を解消し、夜は高いワインを適量飲んでから高級ベッドへ入るのです。一方、プロレタリアはどうかと言えば、体をつかって汗水流して働き、合間の移動時間で菓子パンをほおばります。食後の少ない時間でできる息抜きはしばしば喫煙という方も少なくなく、夜遅く寝るので睡眠時間がそもそも短かったりします。
さあ、どちらの生活がより贅沢で、どちらの生活がより動脈硬化を起こすのでしょうか。
別に、喫煙を良しとする意見ではないし、バランスの偏った食事をとる事に美学を感じるのではありませんが、生活習慣病と銘打つと、動脈硬化を起こした人が自責に苛まられてしまうというか、そういった感じがして私は悶々とするのです。
動脈硬化は長く頑張って生きた方にも起こる病気です。こんなものは、よく頑張ってきたなと労いながら、努力の末に待つ未来が心筋梗塞となってしまわないように、リスク回避の治療をしていけばよいのだと思います。