2025年12月02日

こんにちは。
にじいろファミリークリニック、安田です。
「胸が痛い」、すなわち「胸痛」という症状があります。私は診療科の性質上、この相談をよく受けます。
「胸痛」という言葉で多くの方が連想する臓器が「心臓」ではないでしょうか。これは正直申し上げて、医療現場でもだいたい同じなのです。
私が今まで勤務してきた病院では、胸痛で来院した患者さんはみな循環器内科へ案内されていました。救急外来に胸部症状(痛みや違和感を含む、胸周辺の症状)で来院した方も、だいたい皆さん心臓の検査が行われていました。挙句の果てに、心臓の簡単な検査で異常が出なかったとしても、その他の病気を検査するのではなく、「後日の循環器内科受診」を勧められて帰宅処置がとられたりするのを、よく見ます。
インターネットで「胸が痛い」というキーワードを検索してみると、AIが概要を簡潔でわかりやすくまとめてくれていました。ここでは「心臓、肺、消化器、筋肉、神経など様々な原因が考えられます」と記載されていました。しっかり心臓以外の可能性に言及しているところを見て、めちゃめちゃ有能じゃん!と思った事があります。
日常診療で外来受診にて相談いただく胸痛は「外来胸痛」などと言われたりします。この外来胸痛では、約60~80パーセントが非心原性胸痛であるという報告があります。
非心原性胸痛とは、心臓が原因ではない(=非ず)胸痛症状の事です。一般的に胸痛の原因は心臓病以外に肺炎や気管支炎・胸膜炎、喘息といった呼吸器系臓器からくるもの、筋肉痛や肋軟骨炎といった整形外科系臓器からくるもの、他にも帯状疱疹や胃食道逆流症、パニック発作など多岐に渡ります。原因不明の胸痛で心臓検査を幾度もうけてきて、最終的に側弯症(背骨に強めのカーブがついてしまう病気です)であったという人もいました。側弯症の治療後、胸痛は改善しました。こういった、心臓以外が原因の胸痛を診断できたときって、不思議と「循環器内科っぽい!」という気持ちがこみ上げてきます。
当然、心原性胸痛というものも存在します。狭心症や心筋梗塞、心不全、不整脈などで胸痛を感じる人もおられ、肺血栓症という肺血管に固まった血液が詰まってしまう病気も心臓病に含まれます。肺血栓症は俗に「エコノミークラス症候群」と言われたりもしますが、これはビジネスクラスでもファーストクラスでも起こりえる病気なので、呼び方をちょっと変えてくれてもいいですよね。
ここまでの内容ですと、「なんだ、胸が痛くても心臓病の可能性は30%前後だし、狭心症はそのさらに一部なんだから、心配いらないのか!よし、タバコでも吸うか!」と、思い立つ人もいるかもしれません。ただやはり、そうではありません。
外来胸痛において、見逃すと手遅れになる病気があり、これらをFive killer painとよびます。ここで、「複数形の”s”はどこだ!」と言わないでください。不加算名詞の方のpainです。
当然5つの疾患の総称であり、これがそれぞれ急性冠症候群、急性大動脈解離、肺血栓症、緊張性気胸、特発性食道破裂を指します。肺血栓症はさっき出てきましたね。
急性冠症候群とは、狭心症や心筋梗塞等の病気が短時間で悪性の病態を形成しているようなものを指します。心臓の血管が冠のように見えるので、「冠」症候群と言われます。1000人以上の血管を検査してきましたが、私は心臓の血管が冠に見えたことが一度もありませんでした。どことなく、心臓という葉に栄養をおくる、木の枝のように見えていました。
急性大動脈解離は大きな血管が破け広がってしまう病気、緊張性気胸は肺が裂けた事で空気が漏れ、漏れた空気によって肺や心臓が押しつぶされていく病気、特発性食道破裂は突然食道がやぶけてしまう病気です。
胸痛の原因がFive killer painである確率は、報告ごとに違うものの約10%程度と言われています。ざっくり言うと胸が痛い人の10人に1人は、かなり危ない病気が原因である、という事です。原則、入院や手術になりますが、それでも助からない人も少なくありません。
病気の危険性を考慮する際、期待値的な考え方をする場面があります。あくまで考え方の一つなのですが、少なくとも、あり得る確率のみで病気の危険性を判断しているわけではない、という事です。「万が一という事を考慮して・・・」というやつです。この「万が一」というのは、まさに「1/10000」の確率という事です。ナンバーズ4という宝くじで100万円が当選する確率がまさに1/10000程度ですので、とても低いという事がわかります。
しかし、危険度合を考慮すると、確率が低くとも危険期待値は低いといえません。「すごく起こりにくいけれど、もし起こってしまうとかなり危ない!」という問題の危険性は無視できる程度とは言えないという事です。きっとFive killer painの危険期待値は全然小さくないはずです。先ほどくわえたタバコを、そっと箱に戻して、ゆっくりとゴミ箱へ入れてください。
「そんな事なら患者さんの症状が胸痛だったら循環器内科に案内するわ!」と思った人は、医療職に向いています。「自分だったらまずはFive killer painの可能性を考慮して診察しつつ、心原性・非心原性胸痛の両者を視野にいれて評価をしていくな。」と思った人は、循環器内科医が向いているのでしょう。どう判断していいのかわからない!と思った人は、私に相談しにきてください。