2025年11月20日

風邪が流行っていると、いわゆる風邪の症状としての「咳」を主な相談としてクリニックに受診される方が増えてきます。咳が増えると喉や肋骨も痛くなりますし、睡眠や食事もしにくくなります。周りの目も気になりますし、自分で制御ができませんので皆さん困り果ててしまうのです。
咳が続く方の中には「肺炎」と呼ばれる病気へと進行してしまっている方がいます。実際、勤務医時代でも、特に「誤嚥性肺炎」と呼ばれる病気の方の入院はとても多かったのを覚えています。
誤嚥性肺炎は、唾液や食べ物などを間違えて気道に吸引してしまう事でおこる肺炎の事を言います。この「間違えて気道に吸入してしまう」ことを「誤嚥」と言います。
肺炎は日本人の死因Top5に入る疾患です。この肺炎は特に誤嚥を起こしやすいご高齢の方で多く見られます。歯の本数が減ったり、唾液の量や噛む力の低下、飲み込む筋力や免疫機能の低下など、色々な事が発生率に関係しています。
犬や猫などは、食べ物の通り道と空気の通り道を分離する機能があります。なので、彼らは食事をしながら呼吸も出来ますし、ミルクをずっとぺろぺろなめていても息ができます。一方、直立2足歩行に進化した私たちは喉では空間が縦に広くなりました。これは発声能力の向上につながりましたが、食べ物と空気の通り道が同じになってしまい、なおかつ喉を持ち上げる距離も伸びたので労力が増えてしまいました。なので、息をしながら飲み込みをする事も出来ませんし、喉の筋力低下は誤嚥へ大きな影響を与えます。
肺はブドウのような形の風船が集まって出来ています。この風船どうしが小さい穴(kohn孔といいます。)でつながっていて、空気が一部ではなく、肺全体へ均一にいきわたるような構造です。ばい菌が肺に入ると免疫細胞がコレを倒しに来るのですが、その他の免疫細胞を呼び寄せる合図(サイトカインと言います)を出すので、どしどしと免疫細胞が集まってきます。このどしどし免疫細胞があつまるような反応を「炎症反応」と言います。どしどし集まった免疫細胞による炎症はkorn孔を通って周囲へと広がっていきます。炎症が広がった肺胞では通常の呼吸が出来なくなってくるので、病状が悪化すれば息苦しさが出てきてしまうのです。
一般生活の中で起こる肺炎を「市中肺炎」と呼びますが、市中肺炎の原因として最も多いのは「肺炎球菌」です。明らかに肺炎を起こしそうな名前の菌ですが、蓄膿症の原因になったり、神経の感染症を起こしたりもします。
なるべく肺炎を避けて長生きしたい所ですが、頑張って長生きすればするほどなりやすくなってしまうというジレンマがあります。口を綺麗に保っても、よく噛んでゆっくりと食事をしても、たくさん会話をして口・喉周りの筋肉をよく使うようにしていても、年齢は上がっていくためですね。
どうにか予防に注力したいと思いませんか。
私は予防をしたいので、予防接種をお勧めしています。
厚生労働省では65歳以上の方を肺炎球菌ワクチン定期接種の対象として挙げています。60~64歳であっても、一定の疾患(内臓や免疫の病気等があり身体障碍者手帳1級相当の方)があると定期接種が行われます。また、年齢によらず慢性腎臓病や心臓病、糖尿病、肺気腫・喘息等があれば接種が推奨されています。つまり、国の予防接種推奨に該当する人は思っている以上に多いという事になります。
肺炎球菌のタイプは90種類以上あるのですが、定期接種で使用されているのはそのうちの23種類に対応する「ニューモバックスNP(23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン)」です。この23種類が原因の約4-5割であり、侵襲性肺炎球菌感染症(肺炎球菌が体内深くに侵入する重篤感染)の予防に対して60〜80%の有効性が期待されています。
「人生100年時代」とは、生物学的生存期間の話ではなく、健康寿命をいかに延伸させるか、という事に焦点を当てて話す内容です。予防接種をして健康長寿を目指しましょう。