動悸・脈が乱れる
動悸・脈が乱れる

「動悸」とは、自分の心臓の拍動を強く感じる症状を指します。また「脈が乱れる」とは、脈拍が病的に速くなったり病的に遅くなったりすること、あるいは不規則に打つことを指します。いずれも心臓のリズムに異常がある可能性があります。
動悸や不整脈はストレスやカフェインの摂取、疲労でも一時的に生じることがあります。しかし中には重篤な不整脈や心臓疾患のサインが紛れていることも少なくありません。特に、めまいや失神、息切れ、胸痛を伴う場合には、危険な病気の徴候である可能性があり、精密な検査と治療が必要です。
心臓は上下・左右の4つの部屋に分けられ、上半分を心房、下半分を心室とよびます。心臓は電気刺激によって収縮運動をしており、洞結節と呼ばれる部位(正常な心拍を管理する神経細胞)が発信する電気信号が心房壁に伝わることによって規則的に収縮し、下流の心室へと血液をバケツリレーのように送り出しています。しかし心房やその周囲(心臓と肺をつなぐ血管の付け根が特に多いです)に異常な電気興奮をする病変が出現すると、洞結節の機能が抑制され、心房が1分間に350~600回、不規則かつ小刻みに痙攣するようになります。この病気が心房細動です。
心房細動はとても多い不整脈で、患者数は近年増加傾向にあります。女性よりも男性のほうが、約1.5倍発症しやすいという報告もあり、加齢にともなって発生数も増加していきます。心房細動によって心臓全体のリズムが不規則になると脈のリズムがバラバラになります。
また動悸や息切れ、疲れやすさを感じるようになります。心房細動が持続すると心不全や脳卒中の原因となるため、心拍数の管理や血液をサラサラにするための抗凝固療法(心房細動による脳梗塞発症を防ぐ目的)が必要となります。昨今では治療技術が進歩し、カテーテル治療や手術治療も登場し、早期発見で有効な治療方法を検討することが可能となってきました。
期外収縮は心臓の拍動タイミングが一時的にずれる不整脈であり、このタイミングがずれたときに「胸がドキンとする」、「脈が飛ぶ・間が空く」といった症状がでることが特徴です。期外収縮が出現する部位に応じて上室性期外収縮(心室の上である心房から出現する期外収縮)、心室性期外収縮に分けられます。健康な人にもみられることがありますが、頻度が多い場合や症状が強い場合は、その他の不整脈合併の有無や原因となる背景疾患がないかどうかの精査が必要です。
心臓の上半分にある心房が一定の速さで規則的に興奮し続ける不整脈です。通常は電気刺激のスタート地点である洞結節から出た刺激が心房につたわり、その後に心臓下半分の心室への順番に伝わっていきます。
しかし心房に伝わった刺激が再び心房に帰ってくるような電気通路(リエントリー回路)が存在すると、いつまでたっても心房の刺激が終わらずに周期的な脈が発生してしまい、この時の特徴的な心房の動き方や周期のスピードによって心房粗動や心房頻拍とよばれます。脈拍は主に規則的で速く、動悸、胸部圧迫感等の症状が現れます。治療として薬物治療が行われますが、電気通路を分断するカテーテルアブレーション治療が有効です。
発作性上室性頻拍は突然始まり突然止まる不整脈であり、規則的で速い脈が特徴です。発作時の心拍数が非常に早く、このため比較的強い動悸の症状を発作的に繰り返すことがあります。発作時は動悸症状に加えて胸部不快感や息苦しさ、めまいを伴うこともあります。迷走神経刺激とよばれる刺激や薬の投与によって発作を止められることもありますが、発作を繰り返す場合は根治治療を目的としたカテーテル治療の検討が必要となります。
心臓の動きをコントロールしている洞結節の働きが低下することで発生する不整脈を洞不全症候群といいます。洞結節の機能が低下して心拍数が50回/分以下へと減少し、労作に必要な心拍数に足りないために疲れやすくなるⅠ型洞不全症候群(洞徐脈)、洞結節からの電気刺激な突然休止したり心房へと伝えきれないためにめまいやふらつきを起こすⅡ型洞不全症候群(洞停止・洞房ブロック)、発作的な不整脈による頻脈ともに頻脈発作が停止した直後の徐脈を交互に繰り返すⅢ型洞不全症候群(徐脈頻脈症候群)の3つのタイプがあります。
タイプによって動悸のみではなく息切れやめまい、失神と症状が多彩となります。症状の強い患者様ではペースメーカーの植え込み手術が必要です。
心臓上半分の心房と心臓下半分の心室をつなぐ間で電気刺激が伝わらなくなるために生じる不整脈を房室ブロックといいます。
心房から心室へと電気刺激を伝え終わるまでに通常よりも時間がかかってしまうⅠ度房室ブロック、心房から心室までの電気刺激が徐々に伝わりにくくなり、時に伝えきれず中断されてしまうものをⅡ度房室ブロック、心房から心室へと伝える電気刺激が2回に1回中断されてしまう、あるいは電気刺激が完全に伝わらなくなってしまうものをⅢ度房室ブロック、とよびます。
房室ブロックは治療を要さないものから、ペースメーカー植え込みが必要なものまで様々であり、もともと軽度の房室ブロックであった患者様が徐々に進行してペースメーカー手術が必要となることも少なくありません。病状が進行して間もないころは必ずしも検査で異常をみつけることができないため、根気強く評価を行わないと見過ごされる危険性があります。
心室性頻拍や心室細動は心臓の下半分にある心室とよばれる部位から発生する不整脈であり、重篤な不整脈です。
不整脈が続くことで意識消失や突然死の原因になります。特発性とよばれる明らかな原因のない患者様も一部いるものの、心臓弁膜症や虚血性心疾患、心筋症といった何らかの病気にともなって発生することが少なくありません。このため不整脈発作は前兆として胸痛や息切れを感じる患者様もおり、不整脈が続けば心臓のポンプ機能障害によって脳血流が低下して失神へと至ることもあります。薬物治療によっても十分な管理が出来ない患者様たちへは植え込み型除細動器(ICD)が必要になることもあります。
動悸や脈の乱れを訴える場合、まずは不整脈の有無やタイプの特定が重要です。症状が出ていないときには心電図で異常を捉えにくいため、下記のような検査を組み合わせて行います。
安静時12誘導心電図
基本的なリズム評価
ホルター心電図(24時間心電図)
日常生活の発作を捉える
心エコー検査
心臓の構造異常や心機能を確認
運動負荷心電図
運動に伴う不整脈の誘発を確認
血液検査(甲状腺ホルモン、電解質、
BNPなど)
背景疾患の検索
治療は、不整脈の種類や基礎疾患の有無、症状の重さに応じて選択されます。抗不整脈薬、抗凝固療法、カテーテルアブレーション、ペースメーカーやICDなどのデバイス治療が行われます。
動悸や脈の乱れが続く場合や、症状が強い・頻度が高い場合には、放置せずに診察を受けることが重要です。「ただのストレスかも」と見過ごしてしまう中に、命に関わる不整脈が潜んでいることもあります。
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